脚本:青木豪、演出:白井晃という組み合わせに惹かれて『9days Queen ~九日間の女王~』を観に行きました。舞台美術が大がかりで、二階席から全体を眺められてとても幸運でした。衣装も豪華!デザインと模様を見ているだけでも心躍るほどです。上演時間は約2時間45分(途中20分休憩を含む)。
赤坂ACTシアターの演劇公演は有名スターが多数出演されるので、演劇ファンではないお客様も大勢いらっしゃると思います。ごく一般の観客がスターの熱演を楽しみつつ、主要登場人物が大勢いる歴史劇の複雑な展開に置いていかれることなく、時間軸にそってスムーズに物語を味わい、そして最後には涙しながらメッセージを受け取って帰る。そんな娯楽大作の王道を示してくださったように思いました。
生演奏・歌を担当されている青葉市子さんは、飴屋法水さんともよく作品創作をされているミュージシャンです。
舞台「9daysQueen~九日間の女王~」初日あけて始まりました。サントラ盤も劇場で限定先行販売されています。音楽は三宅純さん。私はうた、声、ギターで参加、それから作詞をしました。
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— 青葉市子 (@ichikoaoba) 2014, 2月 26
⇒CoRich舞台芸術!『9days Queen ~九日間の女王~』
≪あらすじ≫ 公式サイトより
厳格なプロテスタントのジェーン・グレイ(堀北真希)は、野心的な父ヘンリー・グレイ(神保悟志)と虚栄心の強い母フランシーズ・グレイ(久世星佳)の元を乳母エレン(銀粉蝶)と一緒に離れ、ヘンリー8世の未亡人キャサリン・パー(朴璐美)の宮殿で王女メアリー1世(田畑智子)やエリザベス1世(江口のりこ)と共に貴族としての教育を受けていた。そこで家庭教師ロジャー・アスカム(上川隆也)と出会う。宮殿では勉学だけではなく、エドワード6世(浅利陽介)やブラックバード(青葉市子)との出会いなど様々な経験をする。
そんな中、キャサリンは再婚相手のトマス・シーモア(姜暢雄)との間に身籠った子供を出産後死去、ジェーンは再び親元へ戻ることとなった。
やがて、摂政サマセット公(春海四方)の政敵ジョン・ダドリー(田山涼成)の権力が上昇し、最高権力者にのし上がると、王位継承権を持つジェーンは、彼の息子ギルフォード(成河)と結婚させられてしまう。そんな中、エドワード6世の健康が悪化し、ジョン・ダドリーはカソリックのメアリー1世が後継者となる危険性を解き、ジェーンを次の女王にしようと画策する。その後エドワード6世が死去し、ジェーンは突然イギリス女王になるのだと告げられて驚愕するも、拒むことが出来ず女王即位する。エドワード6世の死の直後に避難していたメアリー1世は、自分の即位を認めるように要請するも、ジョン・ダドリーはそれを無視してジェーンの即位を発表。しかしメアリー1世は王冠への権利を主張するためロンドンに進軍し、多くの支持を得てあっという間に王位を奪還してしまう。メアリー1世から改宗を条件に死刑を回避することを提案されるがジェーンはこれを拒否。王位を剥奪された彼女は……
≪ここまで≫
三方の高い壁に囲まれた部屋を、さらに大きな三方の壁で囲むという入れ子状態の舞台装置でした。強者の権力、それによる閉塞感などが想像できます。ジェーンの清楚な白、メアリーの燃える赤、エリザベスの冷たい水色といった衣装の色使いが雄弁。ジェーンのドレスに羽の模様があしらわれていることが、下手前のカラス(ミュージシャン・青葉市子)との共通点になっています。客席通路やステージの地下部分なども含め、大きな舞台空間をすみずみまで使うステージングで、場面転換や時の流れ、登場人物の歴史上の役割などもうまく示されていました。大劇場用の演出テクニックがあるのだなと思いました。
主人公ジェーンが女王に即位して9日後に処刑されることは、題名で既に示されています。そんな不幸な結末を知りながらも、わくわくドキドキできるお芝居になっていました。特にジェーンが処刑台に登ることを自ら決心することになる、最後の問答には聞き入りました。そこに作者(青木豪)の力強いメッセージがあり、私はその意味にハっとして、涙しました。やっぱり劇場に演劇を観に行くことは、教会に通うことと似ていると思います。
「9 days Queen」。考えてみたら堀北真希さんの顔を隠したビジュアルって凄いですね。漢字見ないと誰かわからない。ファンならわかるのかな。 pic.twitter.com/EzkAgXi3PZ
— 高野しのぶ (@shinorev) 2014, 3月 11
ここからネタバレします。セリフは全く正確ではありません。
ジェーンが無理やり結婚させられた相手ギルフォードもまた、ジェーンと同様に父親に虐げられ、自分の思う人生を生きられない青年でした。最初は反発し合っていた2人が徐々に戦友のようになっていくエピソードは、童話や漫画などによくある冒険物語のようで面白かったです。
ジェーンがロンドン塔に入れられると、二重だった壁が開いて分解され、舞台袖にハケて、奥から三重目の壁が現れます。この転換は圧巻でした(二階席から堪能)。彼女はやっとしがらみ(二重の壁)から解放された、それでもまだ牢獄の中(三重目の壁の中)だったんですね。
新女王となったメアリーがジェーンに提示した、処刑を免れるための条件は、ジェーンがプロテスタントからカトリックへと改宗することでした。元家庭教師のロジャーはジェーンに「生きろ(改宗するとサインしろ)」と必死で訴ます。しかしながら、ジェーンが悩んだ末に出した結論はこのようなものでした。
「女王になるということは、国民に“改宗しろ”などと命令する身分になるということ。それは私にはできないし、やりたくもない。つまり、分不相応な私が女王になる決断をしたこと自体が間違いだったのだ。それは私の自己愛と保身からの行動だった。私は罰を受けるべきです。」
これは安倍晋三首相のことだと直感しました。また、ジェーンは断頭台にのぼった時、こうも言います。「私の罪は、無責任に他人の意見を聞いた(そして実行した)ことです。」これは…私自身のことだな、と。ダメ押しされたように感じました。
ロジャーは「間違いに今気づいたんだから、それでいい(生きろ)」、「君は追い詰められていた(選択肢も選択権もなかった)」と色んな角度からジェーンの正当性を示そうとし、彼女の命を救おうとします。私も彼と同じ気持ちでいながら、やはりどこかで「そんなに人生はうまくいかない」という思いもありました。そこで浮かび上がってくるのが「生き残るためにロンドンを去る」と決断したエリザベスです。彼女はメアリーが病死した後、約50年にわたりイギリスの女王として君臨することになります。
人生は純粋かつ善良に生きようとしても、それを徹底できないことがある。もし私自身がそういう窮地に立たされたら、自分の命をどう考え、何を選ぶのか。大きな課題をいただきました。
唐突ですが、2014年3月11日の松江哲明監督のツイートを引用しておきます。
3年前は日本は変わるな、変わらなきゃいけないんじゃないかな、と思ったんだけど今は「そっちか…」というのが正直な気持ち。でも昔の映画を見ると歴史は同じことの繰り返しなんだから、お前が変われよ、と考えることにした。
— 松江哲明 (@tiptop_matsue) 2014, 3月 11
)
【出演】ジェーン・グレイ……堀北真希 ギルフォード・ダドリー……成河 エリザベス1世……江口のりこ メアリー1世……田畑智子 エドワード6世……浅利陽介 トマス・シーモア……姜暢雄 ローズ……愛名ミラ ロバート・ケット……和泉崇司 ブラックバード……青葉市子 キャサリン・パー……朴璐美 ヘンリー・グレイ……神保悟志 サマセット公……春海四方 フランシーズ・グレイ……久世星佳 エレン……銀粉蝶 ジョン・ダドリー……田山涼成 ロジャー・アスカム……上川隆也
アンサンブル:関戸将志 角田明彦 西川瑞 神原弘之 神田敦士 遠藤広太 久仁明 平良あきら 斎藤アキノブ
生演奏・歌:青葉市子
脚本:青木豪 演出:白井晃 音楽:三宅純 美術:松井るみ 照明:齋藤茂男 音響:井上正弘 衣裳:太田雅公 ヘアメイク:川端富生 アクション:渥美博 振付:原田薫 映像:栗山聡之 演出助手:豊田めぐみ 舞台監督:田中政秀 制作:笠原健一、滝口久美 宣伝:ディップス・プラネット 企画製作:TBS
【休演日】3/3,10【発売日】2013/12/11 S席 11,500円 A席 9,500円(全席指定・税込)
http://www.9days-queen.com/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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