劇団印象(いんぞう)-indian elephant-は、鈴木アツトさんが作・演出される劇団です。『グローバル・ベイビー・ファクトリー Global Baby Factory』は第18回劇作家協会新人戯曲賞最終候補作。私は劇作家協会の月いちリーディングという企画で、最初に朗読劇として拝見しました。⇒オーディション告知
「CoRich舞台芸術まつり!2014春」審査員として拝見しました(⇒92本中の10本に選出 ⇒応募内容)。※レビューはCoRich舞台芸術!に書きます。下記にも後日転載します。転載しました(2014/06/17)。
⇒鈴木アツトさんの「インドの代理出産クリニックへの突撃取材日記」
⇒CoRich舞台芸術!『グローバル・ベイビー・ファクトリー』 ※こりっちでカンタン予約!
劇団印象「グローバルベイビーファクトリー」。CoRich舞台芸術まつり!2014春の4本目。またしても面白かった!月いちリーディングから劇作家協会新人戯曲賞公開審査会を経て加筆され、ブラッシュアップされたみたい。 pic.twitter.com/IQBlubF9nF
— 高野しのぶ (@shinorev) 2014, 3月 26
≪あらすじ≫ 公式サイトより
先進国の不妊の苦悩と、発展途上国の貧困は交換可能なのか?
37歳の砂子は、40歳に近づくにつれ、結婚していない自分に不安を抱くようになっていた。結婚しろ、子供を作れという家族からのプレッシャーもあり、お見合い結婚をするが、幸せな新婚生活も束の間、子宮に癌が見つかり、すぐに全摘出手術を受けることに。
子どもを産めない身体になった砂子が子どもを持つには、代理出産という方法しかなかった。インドにある外国人向け代理出産クリニックの存在を知った砂子は、その最後の手段に身を投じていくのだが・・・。
≪ここまで≫
■ネタ化される現代の生命についての考察
不妊と代理母、そしてタイトルになっている“世界規模の赤ちゃん工場”という旬の社会問題と真正面から向き合ったストレート・プレイでした。先進国と発展途上国の搾取の構造や、何もかもが商売やニュースのネタにされていく現代の消費文化について、観客の私も当事者の一人になって考えさせられました。
「(自分と配偶者の遺伝子を継ぐ)子供が欲しい」という“平凡な幸せ”を求める日本人女性が、不妊に悩んだ末に代理母出産を決心します。「外国人向け代理母出産」というビジネスが実行されていく中で、主人公の家族の反応や、インド人代理母と依頼者夫婦との関係、胎内の精子と卵子の様子などが描かれていきます。出来事を一面的ではなく表と裏から、もしくは横から、上からも見つめる複眼的な視点を持つ戯曲でした。セリフが確信を持った言葉に聞こえたのは、作・演出の鈴木アツトさんが現地取材をされたからかもしれません。
深刻な問題を生々しく扱っていますが、コミカルかつ軽快に展開していくので暗くなり過ぎませんし、ファンタジーの要素も大いにあります。場所の移動が頻繁にあるため転換に工夫が見られましたが、残念ながら演劇的なフィクションの立ち上がり方には、まだまだ改善の余地があるように思われました。
小山萌子さんはスリムで美しい体型も活かして、主人公砂子を魅力的に演じていらっしゃいました。目的達成のためには手段を選ばないエリートの砂子は、ともすれば観客の嫌われ者になりかねません。でもわがままを通す子供っぽさの元にある切実さが伝わってきたので、人間として愛らしく見えました。真剣であればあるほど滑稽に映るのも良かったです。彼女を媒介にして出来事を多面的に解釈することが出来ました。
ここからネタバレします。
精子くんたちが被り物を着て登場…いや~…リーディング公演を観ていたので知ってはいたけれど、やっぱりちょっと引きますね(笑)。でもすべて女性が演じているし、ミニスカートの衣装も可愛らしく見えてきたので、すぐに慣れました。
砂子の子供を産むことになったインド人女性ナジマは夫の借金を返すため、つまりお金のために代理母になりました。ナジマに感謝した砂子は彼女に手紙を書き、やがて2人の間で文通が始まって、ナジマは文字の読み書きができるようになります。そんなほのぼのとしたエピソードを挟みつつ、心が痛む事件が連続します。砂子は「赤ちゃんに(自分以外の女性の)産道を通って欲しくない」という理由でナジマに帝王切開を強要し、ナジマはお腹の中の赤ん坊に情が湧いて、代理母ハウスから逃亡します。結局ナジマは無事に女児を出産しますが、生まれた途端に砂子に取り上げられ、一度も抱っこできないまま、代理母ハウスから姿を消しました。
砂子の親友の女性ジャーナリスト那智とカメラマンが、インド人女性に代理母出産を依頼する日本人を探してインドに来ており、偶然、砂子とその夫に遭遇するという事件も起こりました。那智は経済格差を悪用した搾取だと砂子を批判し、砂子は「ごく普通の幸せを望んで何が悪いの?」と反論。未婚で子供を産む予定もない那智は、砂子が自分のことを「普通ではない」と見なし、蔑んでいるのだと言い返して、2人は決別します。
カメラマンは「褐色の肌のインド人の母親から、黄色い肌の日本人の赤ん坊が生まれてくる写真を撮りたい。それぐらいインパクトのある写真が欲しい」と言います。これも代理母ビジネスと同様、人間が命を生み出す営みのネタ化、商品化です。真面目な日本人同士の胸がしめつけられるような対立の後に、砂子の夫が「もし日本人がほぼ絶滅して俺たちが最後の夫婦(つがい)だったとしたら、誰も代理母出産を非難しないんじゃないか」と言いました。種の保存というテーマが追加されて、ぐっと世界観が広がりました。人間に限らずあらゆる種の生殖、繁栄、衰退、絶滅を想像し、さらには地上から宇宙へと思考を飛ばすことが出来ました。
念願の赤ちゃんを得て帰国した砂子は、普段の生活を再開します。朝起きて、着替えて、珈琲を淹れて、ベビーシッターがやってくる。そして以前どおりに出勤して「変わらない朝の風景」を繰り返すのです。妊娠も出産もせずに子供を得て、乳児期の子育てもしない砂子の姿を、冷やかに照明が照らして終幕。解釈は人それぞれだと思いますが、私は作者の鈴木さんが代理母出産に異議を唱えているのだと受け取りました。
細かいですが、笑えたセリフを書き留めておきます。砂子の夫は食品を入れるパックやビニール袋などを製造している会社に勤めています。冷凍保存された砂子の卵子とともに彼の精子をインドに送ることになり、彼はその場で「新鮮な精子を提供」させれられることに。精子を入れる容器が彼の会社の製品だったというが可笑しかった!あと、「外は競争社会なんだろ?出るのが怖い」という精子のセリフも(笑)。
※セリフは正確ではありません。
第18回劇作家協会新人戯曲賞最終候補作
【出演】砂子:小山萌子(エンパシィ)、砂子の母・インド人医師:井口恭子(青年座映画放送)、代理母出産コーディネーター:難波真奈美、砂子の父・カメラマン:広田豹(ブルバキ・プリュス)、ナジマ:水谷圭見(イッツフォーリーズ)、砂子の夫:鈴木智久(Studio Life)、精子の1つ、砂子の親友のジャーナリスト砦那智:橘麦(e-factory)、砂子の妹、他:滝香織、中島由貴、山村茉梨乃、今村有希(激弾BKYU)、中原瑞紀、平岩久資(有限会社レトル)、田村往子
脚本・演出:鈴木アツト 舞台美術:西宮紀子 舞台監督:川田康二 照明:小坂章人 音響:斎藤裕喜 振付:スズキ拓朗 衣裳:西原梨恵 演出助手:永妻優一(appleApple) 絵:大野舞"denali" 宣伝美術:BERM DESIGN TOKYO 制作:村上理恵
ポストパフォーマンストークを開催
3/27(木)14:00 ゲスト:永井愛さん(劇作家・演出家)
3/28(金)14:00 ゲスト:松田正隆さん(劇作家・演出家)
3/29(土)17:00 ゲスト:坂手洋二さん(劇作家・演出家)
【発売日】2014/01/20 前売 3,000円・当日3,500円 未就学児入場不可 全席自由
http://www.inzou.com/gbf/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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