SPAC・静岡舞台芸術センター「ふじのくに⇔せかい演劇祭2014」プレス発表会の写真レポート②です。
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アヴィニョン演劇祭に公式招聘された『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』について、演出の宮城聰さん、出演者の阿部一徳さんと美加理さん、そして共同製作を行うKAAT神奈川芸術劇場の崎山敦彦さんが登壇されました。
アヴィニョン演劇祭への公式招聘の意義と、巨大な装置を新制作する理由、今後盛んになっていくであろう公立劇場の共同製作の方法など、演劇界の将来像がうっすらと見えてくるような、とても興味深いお話でした。
●SPAC「ふじのくに⇄せかい演劇祭2014」⇒公式サイト
2014年4月26日(土)~5月6日(火・祝)
会場:静岡芸術劇場、舞台芸術公園、他
・ステージ数が少ないのでご予約はお早めに!※完売演目あり。
・東京・静岡間の夜行バスあり!
⇒CINRA「東京中心ではない多様性のあり方 芸術総監督・宮城聰に聞く」
【写真:後列左から宮城聰、美加理、天野天街、阿部一徳 前列左から高瀬竣介、秋山実優、宮城嶋静加】
■アヴィニョン演劇祭は7月4日~27日開催/7月中旬にSPACは2演目を上演
司会:SPAC製作の2演目がアヴィニョン演劇祭に公式招聘されました。
・『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』(演出:宮城聰)
期間:2014年7月7日(月)~19日(土)
会場:ブルボン石切場
・『室内』(演出:クロード・レジ)
期間:2014年7月15日(火)~27日(日)
会場:モンファヴェホール
※『室内』は3つの演劇祭に参加します。
「ウィーン芸術週間」5月11日(日)~14日(水)
「クンステン・フェスティバル・デザール」5月20日(火)~24日(土)
「アヴィニョン演劇祭」7月15日(火)~27日(日)
宮城:アヴィニョン演劇祭で7月の中旬ぐらいにSPACの2演目が同時に上演されることになります。これは日本の劇場だけじゃなくて、世界の劇場から見ても快挙じゃないかなと思っています。また、日本の演出家による現代演劇が公式招聘されるのは20年振りのことです。
ピーター・ブルックが石切り場で『マハーバーラタ』を上演したのがおよそ30年前。自分が演劇を志しはじめてプロの演劇人になりたいと思っていた頃、その噂を聞きました。自分が演出家になった頃からの一生涯の目標、ゴールが、「いつか石切り場で自分の芝居をやりたい」ということだったんです。なので、その生涯の目標がこうやって叶ってしまうと(笑)、この後自分はいったいどうするのかなぁ…なんて思ってるんですけど…そんな年齢になったのかなと思ったりもしています。まあ、感慨無量ということですね(笑)。
宮城:僕もとても驚いているんですが、『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』は世界中の演劇人があこがれるフェスティバルの、メイン会場のオープニング作品として11ステージも上演する。しかも今回、石切り場という会場では僕らの作品だけしか上演されません。それぐらい長期間、使用させていただきます。僕の記憶でも石切り場で13日間(休演日を含む)もやる公演なんて見たことがないです。
そして『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』と『室内』は、よくもこの組み合わせになった、というぐらいに正反対の作品です。僕としてはこの2つの作品を生み出せたということで、世界中の劇場人たちに、日本にこういう劇場があるんだと認識してもらえる非常にいいチャンスだなと思っています。
■『室内』の演出家クロード・レジさんとの共通点 ↓舞台写真 ⇒昨年のプレス発表会
宮城:『室内』を演出されたクロード・レジさんはフランス演劇界の巨匠です。レジさんは再演をほとんどされない方なんですが、かつて大成功をおさめられた『室内』については、「とにかくもう一度作りたい」と20年以上、再演計画を温めて来られた。でもレジさんの要求があまりに厳格なものですから、名乗りを上げる劇場がなかったんですね。
『彼方へ 海の讃歌(オード)』という作品で、レジさんが静岡に2週間ほど滞在製作された時、SPACの役者や制作体制を見て、SPACに可能性を見出していただいて、「SPACなら『室内』を作れるんじゃないか」と提案してくださった。僕らも、歴史に残る作品を生み出せるんじゃないかと思い、『室内』を引き受けることが出来て本当に名誉なことだと思います。
去年5月からの『室内』の稽古の前に、レジさんは2月の『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』のフランス・ツアーを観に来てくださいました。終演後に笑顔で僕をハグして、レジさんは「(『室内』と)正反対だからいい」と言ってくださったんです。
僕は一方的に、レジさんとは目指していること、願っていること、夢見ていることが共通していると思っていまして、レジさんも同じように感じてくださったのかなと思いました。とっても共感が出来る人が目の前にいて、その人は90歳で、僕の35年先にいると思えることは、僕にとって希望です。
■ヨーロッパの劇場は三次元、日本は二次元
宮城:僕がヨーロッパの劇場に行ってつくづく思うのは、2500年前の古代ギリシャの劇場と同じく、観客が客席から舞台を見下ろす形状になっているということ。そうやって舞台の奥行を生かすんです。見下ろす観客にとって、舞台の奥行は高さになる。ヨーロッパの演劇では、縦・横・高さという三次元をいかに使うかが演劇人の技量になり、演出家や俳優の腕の見せ所になるんですね。
一方で日本は、演劇ばかりじゃなく美術も含めて、とっても得意なのが二次元なんです。奥行すなわち高さがなく、縦と横しかない。舞台もタッパ(天井高)が低くて横幅がすごく広い。奥行きを表そうとして背の低い子役を使ったりすることもある。それはなぜかと言えば、客席が見下ろし型でないからなんですね。見下ろす場合は背の低い子役なんて効果がない。日本の場合、客席の目線が舞台とほぼ同じ。最後列でも立ってる役者と同じぐらいの高さしかない。だから二次元ができるんですね。
【↓石切り場に備え付けられている客席】
宮城:僕らは二次元の蓄積を、絵巻物から始まって江戸時代を経て現代にいたるまで、かなり長いこと持っているわけです。白黒のモノトーンでものを描くことの蓄積もあります。世界を相手に戦うときには、そういった蓄積を生かした我々の得意技で戦わないと、当然勝ち目がない。石切り場という空間で二次元を実現するには…と考えて、たどり着いたのがこの装置だったんです。
円形の輪っか状の舞台の内側に、10cmずつの非常になだらかな段差のついた1000人の客席があって、舞台は盆踊りのやぐらのように、ものすごく高いところにある。最後列からも舞台を見上げる形になるので、舞台の奥行はほとんど使えない。それで舞台がほぼ完全に二次元になるんですね。1000席の客席の周りに、絵巻物の紙を広げたような舞台が展開する空間構成を考えてみました。
【↓SPACが提案した石切り場の装置の模型】
■「世界中の誰もやってないことをやる」という提案が受け入れられた
宮城:「会場に備え付けられている1000席の客席は使わず、新たに1000席を全部作ってくれなんて、まさか採用されるわけないよな、でも私たちはやる気はあるんだぞと見せておきたいな」と思って、一応、言ってみるだけ言ってみたんです(笑)。そしたら、真に受けてくれるんですよね…。ここがフランス人の素晴らしいところだと思います。「世界の誰もやってないことをやる」という提案に対しては、「おお、おもしれぇじゃねえか」と乗ってくれるんですね。もちろんその感覚はディレクターでもあるオリヴィエ・ピィさんにも共有されていると思います。ともかく「世界中の誰もやってないことをやる」ことに賭けている。それを面白がってくれるのがアヴィニョンのお客様だろうとも思っています。
■『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』に出演する2人の俳優より
阿部:アヴィニョン演劇祭への公式招聘の話を聞いた時、非常に興奮して、いまだにその興奮状態が続いています。個人的には宮城さん、美加理と芝居を作って24年目に入ります。これまで色んなところに(芝居をしに)行きました。そんなことも思い出されたりして、ここまで来たなぁ~という思いが強いです。
今までも色んな国の屋外で芝居をやってきましたが、『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』アヴィニョン公演の会場は、この模型でもわかるように桁違いというか、桁外れというか(笑)、ものすごく巨大な空間です。この丸い通路の中に1000人以上の観客が入る装置なんです。1000人規模で、この空間で、11ステージある…。普段からそうなんですけれど海外はとにかく体調管理が大変で、今回は体調管理…できるのか!?と。個人的にはタバコもやめまして、アヴィニョンに控えています(隣席で宮城さん、崎山さんが笑う)。
先日までソチ・オリンピックがありました。日本を背負ってはいないですけど、私も気分的にはオリンピック選手です。ずっと日本の現代演劇の劇団が正式には招聘されていなかったこともありまして、今後日本の演劇界が注目されるように、できるだけ万全のコンディションで11ステージ、飛ばしていきたいと思います。非常に楽しみです。皆さんぜひアヴィニョンまで足を運んで、応援しに来ていただけたらと思います。その前に静岡公演もあります。
美加理:『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』は2003年に初演されて、いくつかの国で上演させていただきました。初演の会場は東京の博物館の中でした。歴史あるものたちの息づかいが感じられる空間で、この作品は生まれたんです。過去2回、フランスのケ・ブランリー博物館で上演させていただいた時も、いにしえの人々の生活や、自然と共に時間を紡いできたものたちの中で、演じさせていただき、育ってきた作品です。他にはインドネシアの野外の世界遺産で上演させていただいたこともあります。
私たちが今生(こんじょう)で生かしていただいていることの、もっと奥の方にある息吹を感じながら、皆でやらせていただいた作品です。今回、アヴィニョンの石切り場という壮大な自然の中で、また何が生まれるのか。そこで一緒に体験してくださるお客様とともに、どういったことが生まれるのか。生き物としての演劇、つまり行為が、どのように立ち現われていくのだろうか。とてもわくわくいたしますし、生かしていただいて、体験させていただいて、それを多くの方と共有できることが本当に嬉しいです。
今この場にいることに緊張しているぐらいなので(笑)、アヴィニョンでやらせていただくことの興奮みたいなものは、私にはまだないんですが、とにかくメンバー一丸となりまして、心を込めて、その場でその作品を、また別に生き物として生まれなおすように、一生懸命頑張りたいと思います。もしよろしかったら、その空気を一緒に感じていただけるように、日本からも多くのお客様にいらしていただけたらと思っております。
【↓石切り場の写真】
宮城:客席の外側の円は一周90メートルぐらいあります。
美加理:アクティングエリアが途方もなく広いので、ずっと走りっぱなしです。SPACのみんな、お客様、空間からパワーをいただいて、全公演を死なないでつとめて(笑)、無事に帰って来れたらと思っています。
■SPACとKAATとの共同製作について
崎山:KAAT神奈川芸術劇場は平成26年度、共同製作事業に力を入れております。色々ある中の1つが『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』です。文化庁も公立劇場に対して共同製作をするよう奨励してまして、私は作品づくりのノウハウを広めることも目的だと思っておりますが、やり方は色々あります。今年、KAATは九州の劇場と一緒にケベックの『セブン・フィンガーズ』というサーカスを招聘予定で、今後さまざまな招聘や共同製作をします。たとえばA館がチラシをつくり、B館が招聘事業をして、C館がホームページをつくり、D館が制作をするといった、制作の合理化を図る方法など、色んなやり方があると思います。
『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』については当館の技術監督である堀内真人、そして照明チーフが一緒にディレクションに参加し、アヴィニョン演劇祭後の凱旋公演として、KAAT神奈川芸術劇場で9月中旬ごろに上演する予定です。これは共同製作としては初めてのケースで、人的交流を作品づくりに投入し、一緒にものづくりをすることになります。
当館の堀内は数十年前はク・ナウカにいたんですよね?(ク・ナウカを主宰していた宮城さんが頷く)。昔の制作者や仲間が各地の公立劇場に就職してどんどん広がっていって、こういう共同製作が非常にやりやすくなっています。堀内がKAATに居たから、宮城さんのSPACとつながったわけです。
宮城:ものをつくっていくチームをSPACとKAATの混成チームとして立ち上げていくことが、僕らにとっても日本の演劇界にとっても、意味があると思っています。縦割りで役割分担をするんじゃなくて、創作の現場に両方の劇場から人が入って1つのチームをつくる。これによってお互いが、自分たちの欠点を知るだけじゃなく、長所を知ることもできる。そして知っている者からまだ知らない若い者へと情報を伝えることもできる。
変な言い方ですけど、公立劇場というと全く結果のわからないことに挑戦していく野蛮な志、冒険心みたいなものを失うんじゃないかという見方をされがちで、自分たち自身にもそういう危惧が確かにある。なぜなら自分たちは自分たちなりのやり方を、SPACならSPACなりの方法を、確立しようという意志がどうしても強いんです。うっかりすると、自分たちのやり方を内に向けて閉じていくことになりかねない。
この人的交流によってもう一度、結果がわからないことに馬鹿になって飛び込んでいく荒々しさを、お互いのスタッフが取り戻せるんじゃないか。最初はぶつかったりもするでしょうけれど、よその人が入ってくることによって、殻のようなものが破れていき、もう一度冒険心が呼び戻されるんじゃないかと、楽しみにしています。
崎山:とてもありがたいことだと思います。7月には約1か月間、SPACの制作と技術の方々がKAATにいらして、この4月にKAATのアーティスティック・スーパーバイザー(芸術参与)に就任する白井晃の作品に加わっていただきます。色んな人的交流を生かしつつ、全体がステップアップを計れるよう目指していければと思っています。
宮城さんが今回のせかい演劇祭のコンセプトに書かれていますように、やはり敬意をもって接していくことだと思います。敬意をもって人的交流し、一緒に力を合わせることによって、新しい世界が生まれていくのではないかと考えています。
宮城:KAATの大ホールはあらためて図面を見ると相当大きいですよね。客席をしまえるので巨大な箱型の空間になります。さすがに今回の装置の全部は入らなくて、円形の通路の中が500席ぐらいになっちゃいますけど、うまくできた小屋だと思いました。
崎山:ありがとうございます。共同で“作業”をするのは簡単なんですが、一緒にものを作っていくことに意味を見出しています。一緒にものを作る和気あいあいとした場を持つ。それもひとつの共同製作だと思っています。
※アヴィニョン演劇祭への日本の作品の公式招聘について
アヴィニョン演劇祭は年ごとにテーマを決めて、テーマとなった国の作品をまとめて紹介していた時期がありました。かつて日本特集があったのが、ちょうど20年前だそうです。
2007年には江戸糸あやつり人形・結城座が、ジャン・ジュネ作、フレデリック・フィスバック演出『屏風』等で公式招聘されています。関連サイト⇒1、2
⇒写真レポート①はこちらです。
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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