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2014年05月08日

【稽古場レポート】ZU々『Being at home with Claude ~クロードと一緒に~』05/07都内某所

 カナダ戯曲がとても好きな私は、『Being at home with Claude ~クロードと一緒に~』という公演の存在を知った時、また新しいカナダ戯曲に出会えることを嬉しく思っていました。この度、ご縁があって稽古場にお邪魔することができたので、稽古場レポートを書かせていただきます。
 ※カナダ戯曲の主なレビュー⇒
 ※今年11月にカナダの現代劇作家モーリス・パニッチ作『ご臨終』が新国立劇場で上演されます。⇒過去レビュー

 『クロードと一緒に』は1985年にフランス系カナダ人のルネ=ダニエル・デュボワさんが書かれた男4人芝居。本邦初演になります。ある殺人事件の犯人だと自称する若くて美しい男娼と、彼を取り調べる辣腕刑事が、互いの生き方や人間観をぶつけ合う濃密な会話劇です。カナダとイギリスで何度も再演され、1992年にはカナダで映画化され高い評価を得て、カンヌ国際映画祭の“ある視点”部門でも上映されました。

 通し稽古を拝見したところ…すごく面白かった!満足以上でした!!

 出演者のファンの方も、イケメン目当ての方も、BL好きの方も、私のようなストレート・プレイに目がないコアな演劇ファンの方も、そして劇評家の方々にもぜひご覧いただきたいです。この翻訳戯曲の本格上演は、観ておいて損はないと思います! ※私が拝見したのは稲葉友&伊達暁バージョンです。

 【写真↓左から:古川貴義(上演台本・演出/緑色のシャツ)、伊達暁(白いシャツ)、稲葉友(金髪)】
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 ↑戯曲の真意、核心をともに探り、それを形にしようと集中する稽古場でした。

 ●ZU々『Being at home with Claude ~クロードと一緒に~』公式サイト
  05/14-18青山円形劇場
  脚本:ルネ=ダニエル・デュボワ、翻訳:イザベル・ピロドー/三宅優
  上演台本・演出:古川貴義(箱庭円舞曲)
  主演(ダブルキャスト):相馬圭祐&伊藤陽佑/稲葉友&伊達暁
  前売り5,950円 当日6,850円 学生3,900円
  ※R-15と同程度の性的描写があるため15歳未満の入場不可。
  ★当日料金が高いので前売りがオススメ!

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 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 1967年7月5日、月曜午前10時。

 カナダ、モントリオール、裁判長の執務室。
 容疑、殺人。

 自首してきた若い男娼。
 外には大勢のマスコミ。
 刑事の取調べは36時間を超えた。

 真実だけが、見付からない。
 ≪ここまで≫

 夢も希望も持てない泥まみれの現実を見据えながら、この上なくロマンティックに愛を謳い、人間を賛美する。カナダ戯曲の懐の深さ、高潔さを存分に味わうことができました。世界に自分の居場所がないと思っていたり、過酷な状況に追いやられている人々の悲しい人生を、生々しく、荒々しく描く中、澄んだ湧き水のように清らかな慈しみの感情が、こんこんと溢れ出して空間を満たしていきました。
 
 翻訳も担当されたプロデューサーの三宅優さんは、1991年にロンドンの小さな劇場でこの作品と出会われました。あまりに感動したため、英語版の戯曲を探して10か所以上の古書店を歩き回ったそうです(その時は見つからなかったとのこと)。長い年月を経て、「私がもう一度、見たい、友達に見せたい」というシンプルな思いを貫き、今回の上演にこぎ着けられました。
 私自身も「自分が観て面白かった舞台を、より多くの人に観てもらいたい」という思いで、ブログやメルマガで情報発信していますので、勝手ながら三宅さんにとても共感しています。そして通し稽古を拝見した今、三宅さんに心から感謝したい気持ちです。

 【写真↓左から:稲葉友、伊達暁】
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 今公演はダブルキャストで、私は稲葉友さん(男娼役)と伊達暁さん(刑事役)が主演するバージョンの通し稽古を拝見しました。
 刑事が男娼を追い詰める密室での取り調べは、いわゆるクライム・サスペンスの王道の面白さ!じりじりと真相に近づいては遠ざかり、息をつかせない緊迫感があります。刑事役の伊達さんが繰り出す挑発的なセリフはリズミカルで小気味よく、緩急を駆使した駆け引きに、思わずニヤリとさせられました。冷徹な刑事でありながら、社会から爪はじきにされた弱き若者に真っ直ぐに問いかける声には、大人の包容力も感じられました。

 【写真↓左から:伊達暁、稲葉友】
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 自分から出頭したものの、男娼は36時間取り調べられっぱなしで疲労困憊。一方、刑事もマスコミ、被害者家族、省庁のお偉いさん達に囲まれて四面楚歌です。極限状態に追い詰められた2人はお互いに本気で本音を語りますが、住む世界も、人生の意味も異なる2人の言葉は、絶望的に通じません。

 男娼を演じる稲葉さんに、すっかり魅せられてしまいました!もちろん演出の古川貴義さんのお力もあると思いますが、戯曲の意味を咀嚼し、セリフを細かく分析したのであろう、嘘や漏れのない瑞々しい演技をされていました。これだけ演じられて、まさか21歳とは!通し稽古後のダメ出しの時、稲葉さんは古川さんの指摘、提案をまるでスポンジが瞬時に水を吸収するように、素直に聞いていらっしゃいました。とはいえ鵜呑みするばかりではなく、自分の演技の根拠についてもサラリと説明されていました。いつか稲葉さんが古典戯曲の主役(ハムレット、ロミオ、トレープレフなど)を演じるのを見たいと思いました。

 【写真↓左から:井上裕朗(速記者)、鈴木ハルニ(警護官)】
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 井上裕朗さん演じる速記者は刑事の右腕的存在です。デキる男2人の丁々発止のやりとりには刑事ドラマの醍醐味があり、一呼吸ごとに物語に引き込んでくれます。速記者は密室のドアを開けて外部から事件を運んでくるので、登場する度に異変を起こす存在です。
 鈴木ハルニさんはコミカルな警護官。大げさでなく、出てくるだけで笑わせてくださいました。本当に顔を見ただけで笑っちゃうんです(笑)。狙いをはずさないコミック・リリーフは実力の証だと思います。

 堂々巡りの取り調べにもタイムリミットが迫り、自分の名前も殺した男の名前も口にせず、「言葉じゃ表現できない」と繰り返していた男娼が、とうとう語り出しした事件の真相とは…。
 言葉にすると陳腐になってしまう、文章にするとこぼれ落ちてしまう、誰かに伝えると嘘になってしまう、そんな目に見えない、手につかめないものをあらわす術はあるのでしょうか? 『クロードと一緒に』の最後の場面には、不可能を可能にする演劇のマジックがありました。言葉と声と体と、そして心で、真実をあらわすことができるのだと信じられました。

 演出の古川さんは上演台本も手がけられており、稽古の間にセリフを変更することも厭いません。俳優さんにアイデアを投げかけ、互いに意見を出し合う柔軟なコミュニケーションがありました。キャスト、スタッフが戯曲に敬意をささげて、戯曲を中心にそれぞれの役割を果たしていくような、自発性と結束力がいいバランスを取っている稽古場でした。

 ⇒チケット予約はこちら

 ここからネタバレします。ご覧になる前には読まないでください!

 "Being at home with Claude"という英語のタイトルは、日本語に直訳すると「クロードと一緒に家にいること」になります、"at home"は「くつろぐ」「故郷にいる」という意味にもなりますね。「クロードと一緒に」という日本語のタイトルも、読めば読むほどこみあげてくるものがあります。「クロードと一緒に居る」「クロードと一緒にイク」「クロードと一緒になる」「クロードと一緒に生まれる」…。


出演:相馬圭祐・伊藤陽佑、稲葉友・伊達暁、井上裕朗、鈴木ハルニ
脚本:ルネ―ダニエル・デュボワ、翻訳:イザベル・ピロドー/三宅優 上演台本・演出:古川貴義 美術:稲田美智子 照明:工藤雅弘 音楽:水永達也 音響:岡田悠 衣裳:山中麻耶 ヘアメイク:大宝みゆき 演出助手:村田鈴夢 舞台監督:鳥養友美 宣伝美術:[図案]デザイン太陽と雲 [WEB]堀田弘明 宣伝写真:武島銀雅 宣伝ヘアメイク:KAZU 制作:小野塚央 宣伝協力:和田谷洋子 キャラクターイメージ監修:小出みえこ 後援:カナダ大使館 ケベック州政府在日事務所 プロデュース:ZU々
【発売日】2014/04/19 前売り5,950円(税込)  当日6,850円(税込)  学生3,900円(税込)(チケットぴあのみにて取扱い。当日引き換え券。要学生証提示。)  ダブルキャスト観劇割引:○☆の両キャストの舞台をご覧になる方には、2度目の観劇の入場時、1度目の観劇のチケット半券をお持ち頂ければ、1000円のキャッシュバックあり。
http://www.zuu24.com/withclaude/index.html


※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2014年05月08日 22:18 | TrackBack (0)