アイルランド共和軍(IRA)の男たちの30年間を描いた英国劇作家リチャード・ビーンさん(1956年生)の戯曲を、森新太郎さんが演出されます。上演時間は約3時間5分(途中休憩1回を含む)。森さんが2012年末に演出された『ハーベスト』もビーン戯曲だったんですね。
⇒平川大作「リチャード・ビーンの登場人物」(新国立劇場現代戯曲研究会)
予想外に笑いがいっぱいのストレート・プレイに仕上がっていました。こんなにウケていいのかな…と少し不安になるぐらい。専門知識がなくても大丈夫だと思います。
折り込みチラシに挟んであるキャスト表に知っておくべき情報が載っています。「幕があがるまで、これだけはインプット、三つのキーワード」というとても親切な1枚!有料の当日パンフレットも内容充実です。
⇒メディア情報は公式サイトが充実しています。
⇒オモシイ「INTERVIEW!『THE BIG FELLAH ビッグ・フェラー』成河さん」(1)(2)
⇒CoRich舞台芸術!『THE BIG FELLAH ビッグ・フェラー』
≪あらすじ≫ 公式サイトより
1972年、ニューヨークのアイリッシュレストランではブラッディー・サンデー(注)の追悼集会が開かれていた。アイルランド共和軍(IRA)のNY支部リーダーのコステロ(内野聖陽)は対イギリスへの報復と組織強化への思いを熱く語る。
彼らIRAの活動家たちの隠れ家はマイケル(浦井健治)のアパートメント。しかし活動家と言っても彼らの日常はごく普通のNY市民であり、その中にはマイケルのような消防士もいれば警察官もいた。アイルランドからやって来たお調子者のルエリ(成河)は、バーで親しくなった女性をマイケルのアパートに連れ込むが・・・。
1972年からの30年間にわたるIRA活動家たちの日常生活を描きながら、報復は新たな報復しか生み出さないという、“負の連鎖の虚しさ”を、徐々に浮き彫りにしていく。物語の終盤、彼らは、それぞれの生きるべき道を模索し始める。その結果、彼らが手にしたものとは?そして失ってしまったものとは?
(注:1972年1月30日、イギリス軍が公民権運動デモ中の非武装のアイルランド市民を殺傷した歴史的事件)
≪ここまで≫
北半球のほぼ反対側の国の、ある軍隊についてのお話ですが、セント・パトリックス・デイ・パレードは日本でも盛大に行われています。毎年、表参道のパレードは大盛況です。このお芝居の舞台も米国ニューヨークですし、私たちにとって縁遠いものではないと思います。
軽妙なやりとりに笑いがドンドコ起こるなか、愚かだなぁ…という気持ちで舞台を眺めていました。安倍政権が進めようとしている集団的自衛権の行使容認の件など、日本を戦争のできる国(戦争をしなければならない国)へと変えようとする人たちの動向をチェックする毎日なので、IRAという軍隊の内部を描くこのお芝居は、あってはならない将来の私たちの姿のように映りました。
「命令は絶対だ(背くと殺される)」「一度入ったら抜けられない(抜ける時は殺される)」って…それがその軍隊のルールなんですけど…愚の骨頂だと思います。どんなに高い志を掲げていようとも、そんな気配が漂う組織・集団には近づいてはいけないですね。教訓、教訓! こんな風に自分に引き寄せて考えることができたのは、親しみが持てるほど人間くさい人たちが舞台上にいてくれたおかげだと思います。
初日の時点ですが、俳優の演技は全体的に予定通りに進めているように見えて、あまりそそられなかったです。一言のセリフを、ちょっとした動作を、入念な試行錯誤の末に選ばれているのだと思いますが、もっともっとさりげなく、当たり前に、自然に起こって欲しいと思いました。私が観たことのある森新太郎さんの演出作品に比べると、より幅広い客層に向けた演出になっているのかもしれません。
ここからネタバレします。これからご覧になる方は読まないでくださいね!
Googleの検索エンジンでネタバレ以降が見えてしまうというご連絡をいただきました。公演が終わるまでネタバレ以降は削除します(思い出したら復活させます)。ご連絡くださった方に感謝します。ありがとうございました。(2014/05/28)
以下を再掲しました(2014/07/10)。
娘がヘロイン中毒で死亡し、妻も去ったコステロ(内野聖陽)。終盤のスピーチで自分こそがFBIに情報を漏らすスパイだったと自白し、アジトに戻って同胞たちに自分を撃てと言います。裏切り者になってからも「ビッグ・フェラーと呼ばれていたかった」と吐露するのは、なんとも情けないですが、気持ちはわかります。人間は弱いとずるくなります。弱さを偽ると、卑怯になる。
最後のシーンが一番好きでした。字幕は2001年9月11日。アジトではマイケル(浦井健治)が一人、ラジオを聴きながら朝食を取っています。消防士の制服を着て、ラジオを切って、いつもどおりに出かけるマイケル。誰もいなくなった部屋に遠くの爆音やパトカーのサイレンが響き、溶暗して終幕。まさに9.11の朝なんですね。彼の職業が消防士であることも、穏やかな朝にはふさわしくない、異様な緊張感を生んでいました。
※脚本を読んだ知人によると、ト書きには字幕や音響効果の指定はないそうです。
≪東京、兵庫、新潟、愛知、滋賀≫
出演:内野聖陽、浦井健治、成河、明星真由美、町田マリー、黒田大輔、小林勝也
脚本:リチャード・ビーン [翻訳] 小田島恒志[演出] 森新太郎 [美術] 二村周作 [照明] 佐藤啓 [音響] 藤田赤目[衣裳] 半田悦子 [ヘアメイク] 川端富生 [アクション] 渥美博[演出助手] 城田美樹 [舞台監督] 澁谷壽久 [主催] 公益財団法人せたがや文化財団/株式会社WOWOW [企画・制作] 世田谷パブリックシアター
【休演日】5/26 6/2 全席指定 一般S席7,500円/A席5,500円 高校生以下 一般料金半額(世田谷パブリックシアターチケットセンター店頭&電話予約のみ取扱い、年齢確認できるものを要提示) U24 一般料金半額(世田谷パブリックシアターチケットセンターにて要事前登録、登録時年齢確認できるもの要提示、オンラインのみ取扱い、枚数限定) 友の会会員割引 S席7,000円 せたがやアーツカード会員割引 S席7,300円
http://setagaya-pt.jp/theater_info/2014/05/the_big_fellah.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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