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しのぶの演劇レビュー
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2014年08月17日

【アヴィニョン演劇祭2014】SPAC『マハーバーラタ~ナラ王の冒険~(Mahabharata-Nalacharitam)』07/07-19ブルボン石切場

 2014年7月にフランスのパリとアヴィニョンに行って参りました。⇒まとめエントリー

 静岡の県立劇場専属劇団SPAC(スパック・静岡県舞台芸術センター)の代表作の1つ、『マハーバーラタ~ナラ王の冒険~』がフランスのアヴィニョン演劇祭に公式招聘されました(⇒演劇祭の公演公式サイト)。※詳しいことは「ふじのくに⇄せかい演劇祭2014」プレス発表会のレポート()にもあります。

 日本の演出家による現代演劇がイン(公式招聘)に選ばれたのは20年振り。しかもブルボン石切場(1,000席)というメイン会場を13日間も占拠するのは、世界中の演劇人があこがれる同フェスティバル史上初めてかもしれないとのこと。私の渡仏の最大の目的の1つが、この作品を現地で観ることでした(⇒2012年のレビュー ⇒メルマガのおすすめ前売り情報)。

 7月7日が荒天で公演中止になったため、初日は8日夜となり、その翌日にフランスの大手新聞ル・モンドに絶賛の劇評が出ました。その後も次々に劇評が出て、絶賛の嵐!
 ⇒主な情報はSPACの公演公式サイトにまとまっています。
 ⇒メディア掲載情報がSPAC公式サイトにまとまっています。

 フランスではアンテルミッタン(舞台芸術・視聴覚産業に携わるフリー労働者)による大規模なストが行われており、アヴィニョン演劇祭のインの注目作である『マハーバーラタ』も例外ではなく、7月12日にストが決行されることに。SPACは当日、公演会場であるブルボン石切場ではなく、アヴィニョン城壁内の法王庁前広場で『マハーバーラタ』抜粋版の無料パフォーマンスを行いました(⇒レポート、⇒動画 ⇒宮城聰さんのコメント)。これ以降、千秋楽まで満席だったようです。
 ⇒仏の有力紙フィガロ「心、視覚、そして魂を洗う崇高な時間」(片山幹生さん訳)

 【舞台写真↓(c)Christophe Raynaud de Lage(演劇祭公式サイトより)】
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 ⇒ル・モンド紙の「第68回アヴィニョン演劇祭」総括(7/28付)にて、SPACの2演目(『マハーバーラタ~ナラ王の冒険~』と『室内』)が「記憶にとどめるべき10演目」に選ばれました! イン約40演目、オフ1083演目の中のベスト10に、2演目とも選ばれるという快挙です。⇒片山幹生さんによる日本語訳(一部)

 来たる8月19日(火)19時~21時に東京芸術劇場で、SPAC芸術総監督・宮城聰さんと現場に立ちあった演劇評論家の長谷部浩さんが登壇される【緊急報告会】が開催されます。料金:無料(要メール予約)、定員:60名(先着順)。※既に満席だそうです。
 神奈川芸術劇場での凱旋公演は9月12日(金)19:00、9月13日(土)13:00と18:00の3ステージのみ。お早目にチケットを確保してください!

 ⇒木津潤平建築設計事務所「マハーバーラタ ナラ王の冒険 2014 Avignon版
 ⇒舞台空間を担当した建築家木津潤平さんのブログ()(
 ⇒舞台設営の写真
 ⇒舞台写真
 ⇒アヴィニョン演劇祭参加の記()()()()()(
 ⇒<役者おくぬ~日記>アヴィニョンでSPAC旋風!from SWISS

 【写真↓】私が拝見したのは7/17の夜22時開演の回。レンタカーで友人と合計3人でブルボン石切り場に向かいました(アヴィニョン・セントラル駅から往復のシャトルバス[有料]が出ています)。だだっ広くて何もない駐車場に車を止め、山道を歩いて会場へ。写真左はレンタカーです。
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 【写真↓】岩がそびえる劇場にたどり着く前に、バーを備えたロビー空間がありました。お酒と軽食でおしゃべりを楽しむ人々の他に、トイレに並ぶ人々の列も。夜は極寒と聞いていたので冬用のコートを準備してたんです。トイレには行っておくべきですね。
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 【写真↓】ありがたいことにセンターブロック前方席という良席。ちょうど目の前が演奏者たちのスペースでした。ステージは見上げる状態です。さらに上には岩が高くそびえており、大自然に圧倒される感覚がありました。
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 【写真↓】だんだんと日が落ちて暗くなっていきました。客席を見渡すと、色んな人種の人々が。おそらく関係者やその友人だと思いますが、日本人も多く見かけました。山の中の岩ばかりの場所に、人種を問わず大勢の老若男女が1つの目的(観劇)のために集まっている…それだけですごく楽しい気分に。
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 いよいよ開演!という時に、演奏者の足元にある字幕用の電光掲示板に、Shizuoka Performing Arts Centerという文字が見えて、ぶわわっとこみ上げてくるものがあり、観る前から少し落涙。こんなところまで日本の、静岡の公立劇場がやってきたんだ!とあらためて感激してしまったんです。『マハーバーラタ』の初演は2003年。東京、静岡、他の国々での上演や、昨年のフランス・ツアーの成功を経て実現したのが、今回のブルボン石切り場公演ですから、この晴れ舞台は一朝一夕に成就したわけではないんですよね。

 演奏者ひとりずつが奏でる打楽器の小さな音色に、観客がじっと耳をそばだてる、静かな幕開けでした。驚かせて魅せるのではなく、小さく始まったグルーヴが徐々に大きくなっていき、わくわく感が増大!演奏者の背中からただならぬ気配も感じ、あぁ、プロフェッショナルだなぁと思いました。

 やがて眼前の岩に大きな人影が!すぐに背後を確認したのですが、俳優の姿は見つけられず。じゃあ、誰なんだ、あの影は…?!と疑問がわいた次の瞬間、思い浮かんだのは目に見えない何らかの存在、簡単に言ってしまえば“神”でした。石切り場の『マハーバーラタ』は巨大な岩に映る影を効果的に使い、人知を超えた何かの存在感を強調していました。私はすっかり術中にはまり、白装束の神々も、ナラ王もダマヤンティー姫も、セリフを語るspeakerの俳優たちも皆、人間ではない、畏れるべき存在であると受け止めて鑑賞することになりました。

 【舞台写真↓(c)Christophe Raynaud de Lage(演劇祭公式サイトより)】
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 俳優の中では何といっても語りの阿部一徳さんです。鉄板の安定感で、演じ分けもすばやくて鮮やか。音として聞いてるだけで楽しくなってくるぐらい!コミカルなセリフはフランス語がわかる観客に大いにウケてました。
 ヒロインのダマヤンティー姫を演じた美加理さんは、笑顔がめちゃくちゃ可愛らしかった!ジャンプしちゃうのも超キュート!私の思い違いかもしれませんが、喜びを表現する動きや感情表現が、この劇場に合うように大きい目になっていたような。それは大成功だったと思います。

 終演後にしみじみと振り返りながら考えたのですが、この作品で一番良かったのは…躍動感あふれる音楽かもしれません。この作品全体が音楽であるともいえるのでしょうけど、見事な幕開けも含めて、パーカッションの音とリズムが素晴らしいだけでなく、アンサンブルが統制されている様子も美しかった。演奏者たちの心を一つにした音の純度が高く、魅入られました。

 ここからネタバレします。

 悪魔に憑りつかれて賭け事に夢中になり、サイコロの賭けに負けて弟にすべてを奪われたナラ王は、一緒に逃げたダマヤンティー姫を森に置きざりにして失踪します。森の中の場面で大きな岩石をバックに登場する象や虎などは、野生の動物であること以上の意味があるように思われました。たとえば木や風とともに“自然”を代表する存在にも見えて、前述した“神”そのもの、又は“神”の使いとも受け取れました。

 【舞台写真↓(c)Christophe Raynaud de Lage(演劇祭公式サイトより)】
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 『マハーバーラタ』はSPAC作品の中でもギャグや観客サービスが多い方だと思います。わっはっはと大笑いするより、クスクス、にやりとしてリラックスできるような、大らかで微笑ましい種類の笑いです。今作を観た友人の中には「あんなにウケを狙わなくてもいいのに」と言う人もいたのですが、私は観客との距離を縮めて空気を和ませるのは重要だと思い、どんなネタも歓迎でした。ただ、思いっきり爆笑したい気持ちもないわけではなかったです。

 時差ボケのせいもあってか、集中が途切れて眠くなったことが何度かありました。中盤以降だったので、たぶん、ナラ王の他に登場する王様たちの区別がつきづらかったからではないか…と思います。東の国、西の国、南の国、北の国という具合に、東西南北に分かれた各国の王様たちが登場したと思うのですが(記憶はあやふやです)、「この人はどの国の王だっけ…?」と迷いながら観ることが何度かあったんですよね。衣裳がすべて白色で判別しづらいのも原因かと。演技を工夫したり、衣装やメイクで違いを際立たせるなどして、各王の特徴をもっと大げさにあらわしてもいいのではないかと思いました。

 【舞台写真↓(c)Christophe Raynaud de Lage(演劇祭公式サイトより)】
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 人間も動物も神も悪魔も、舞台上の全員が踊り歌う終盤の場面で、感動して涙があふれて止まらなくなってしまいました。まさに祝祭です。この劇場にいる人々全員と、目に見えない何か、そして岩石に代表される大自然も含め、あらゆるものが全身全霊で平和を謳歌しているようでした。円形通路でできた舞台美術なので、俳優が観客の背後でも演技をします。俳優たちが観客をぐるりと囲むことも、奇跡のような一体感を生む仕掛けだったのでしょう。

 同じ過ちを繰り返し続けている愚かな私たち人類には、永久に手に入れられないであろう本物の平安が、劇場で演じられる虚構によって生み出されたことが感動的です。色んな人種、性別、年齢の人々が集う大自然の劇場で、ともに演劇の喜びと幸せを分かち合うことができました。

 【写真↓】最後の最後に誰もいなくなった舞台で、岩石に明るい照明が当てられました。この岩が主役になることで、人知を超えた何かの存在がさらに強調されたように思いました。この写真は終演後に劇場を出てからすぐに振り返って撮ったものです。
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 終演後はリムジンバスでアヴィニョン城壁内へと戻る人が多かったですが、私たちはレンタカーだったので比較的ゆっくりできました。そのおかげで演出の宮城聰さんにご挨拶できて幸運でした。宮城さん、ありがとうございました! ↓私は泣いた後の顔をしてますね(汗)。

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"Mahabharata-Nalacharitam" Festival d'Avignon In
公演期間:7月7日(月)※初日は荒天で公演中止・8日(火)・10日(木)・11日(金)・12日(土)・13日(日)・14日(月)・15日(火)・17日(木)・18日(金)・19日(土) 各日22時開演 会場:ブルボン石切場
出演:阿部一徳、赤松直美、石井萌水、大内米治、大高浩一、片岡佐知子、加藤幸夫、木内琴子、榊原有美、桜内結う、佐藤ゆず、鈴木麻里、大道無門優也、舘野百代、寺内亜矢子、仲村悠希、本多麻紀、牧野隆二、牧山祐大、美加理、森山冬子、山本実幸、横山央、吉見亮、若宮羊市、渡辺敬彦 
演出:宮城聰 台本:久保田梓美 音楽:棚川寛子 空間構成:木津潤平 照明:大迫浩二、小早川洋也、山森栄治(KAAT) 音響:水村良、加藤久直、牧嶋康司 衣裳デザイン:高橋佳代 美術:深沢襟 ヘアメイク:梶田キョウコ 衣裳:大岡舞  技術監督:堀内真人(KAAT) 舞台監督:村松厚志  舞台:岩崎健一郎、山田貴大 演出補:中野真希 ドラマトゥルク:横山義志 制作:大石多佳子、中野三希子 製作:SPAC静岡県舞台芸術センター 共同製作:KAAT神奈川芸術劇場
http://www.spac.or.jp/mahabharata_avignon.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2014年08月17日 22:17 | TrackBack (0)