新国立劇場演劇研修所(⇒facebookページ)が8期生の第1回目の試演会として、畑澤聖悟さんの戯曲『親の顔が見たい』を上演します。『親の顔~』は劇団昴で2008年に初演された、私立女子中学校のいじめ自殺がテーマの会話劇で、その年の鶴屋南北戯曲賞の最終候補に選ばれました。8期生の西岡未央さんのインタビューによると“『十二人の怒れる男』のカトリック系女子校バージョン”。
劇団昴版は今年も8月の東京公演後、北海道・九州を巡演中です。2012年には韓国で2か月以上のロングラン公演(演出:キム・クァンボ ⇒Nextニュースヘッドライン ⇒韓国舞台情報サイト)が実現し、なんと現在、韓国の人気映画監督による映画化の情報もあります。
つまり…めちゃくちゃ面白い戯曲なんですっ!!(⇒2009年のレビュー)
公演初日まであと2週間という時期に、通し稽古を拝見しました。
【写真↓手前のみ左から:薄平広樹、西岡未央(撮影:藍田麻央)】
●新国立劇場演劇研修所8期生試演会①『親の顔が見たい』
09/05-10新国立劇場小劇場
作:畑澤聖悟 演出:西川信廣(新国立劇場演劇研修所副所長)
A席3,100円 B席2,500円 学生料金1,000円 Z席(当日券)1,500円
※6日間、6ステージ。9/6(土)14時、9/7(日)14時は前売り完売間近。
※9/10(水)14時の回の後に、19時開演の『三文オペラ』初日をハシゴ観劇可能!
『三文オペラ』には同研修所の修了生が7人も出演されています。
⇒CoRich舞台芸術!
●新国立劇場演劇研修所8期生出演『朗読劇「少年口伝隊一九四五」』
09/23-24新国立劇場小劇場
作:井上ひさし 演出:栗山民也
毎夏必見の朗読劇です。挿絵入りの本も出版されています。
⇒CoRich舞台芸術!
≪あらすじ≫ 公式サイトより。
都内カトリック系私立女子中学校、夜の会議室。いじめを苦に自殺した生徒の遺書に名前が書かれていた、生徒たちの親が集められた。年齢や生活環境、職業が異なる親たちは、それぞれ自分の子どもを擁護することに終始する。親同士の怒鳴り声が高まる中、それぞれの家庭の事情や親娘関係が浮き彫りになっていく......。
≪ここまで≫
舞台は私立女子高の会議室。いじめ加害者の容疑がかかった5人の生徒の親たちと、校長、学年主任、自殺した生徒のクラスの担任教師らが一堂に会します。場面転換が一切ない正攻法の会話劇ですが、退屈な時間は全くありません。学校に届く謎の手紙や、次々に現れる招かれざる客たちが会議室の空気をかき乱し、あっと驚くような事件を起こし続けるのです。
中学生の娘を持つ親たちですから、礼儀正しく落ち着いたコミュニケーションをするかと思いきや、会話は最初からぎくしゃくしっぱなし。不安定で何が起こるかわからない空気がとてもスリリングです。
【写真↓ (撮影:藍田麻央)】
「そもそもいじめなんて本当にあったのか」「自殺した生徒やその保護者に問題はなかったのか?」自分の娘が加害者(=人殺し)の嫌疑をかけられた親たちは、ありとあらゆる方向から加害の事実を疑い、こぞって論陣を張ります。「自分の子供がいじめなんてするはずがない」という盲信ありきの発言は、愚かで、みっともなくて、それゆえ失笑を誘うほど。でもその一方、手段を選ばないひたむきな行動力は、娘への強い愛情のあらわれとも受け取れます。孔子の論語の一説である「父は子の為に隠し、子は父の為に隠す、直きこと其の内に在り」(⇒解説)を思い起こさずにいられませんでした。
このお芝居の登場人物は全員がいい大人で、まともな服装で丁寧な言葉遣いをしているにもかかわらず、結果的には全て引っぺがされて、本性丸出しになってしまいます。まるで様々な種の鳥獣が同じ檻の中で暴れまわっているかのよう(笑)。私は展開も結末も知っているのですが、思わず吹き出し笑いをしたり、身の毛もよだつ犯罪の証言に戦慄したりして、一般の観客のように最後まで楽しんで拝見することができました。
【写真↓左から:薄平広樹、荒巻まりの、永澤洋(撮影:藍田麻央)】
通し稽古の後、少しの休憩を挟んでから、演出の西川信廣さんのダメ出しが始まりました。まずは全体について。
西川:方向性はいいけど、のびやかさがない。奔放さ、自在さがない。若い俳優は生真面目に、ちゃんとやろうと思い過ぎちゃう面がある。もっと自分を解放して、自由になって、呼吸して。呼吸が止まっちゃうと人間は死ぬからね(笑)。そして新しいことをやらないと(いけない)。今まで使わなかった声を出すとか、もっとやっていい。リアクションは心の中でやっていると思うけど、もっと外に出してもいい。
西川:相手のセリフをよく聴きとれるようにはなってる。でもちょっと(演技が)予定されちゃっている。聴く集中力を持って、ちゃんととらえるように。昨日も言ったけど、しゃべることより聴くことにシフトしたい。なんでもないセリフを、ちゃんと受けてから、返す。
セリフの1つひとつについても細かく指摘をされました。言い方を少し変えるだけで場面の意味自体も変わってくるんですね。ほぼ密室での現代口語の会話劇なので、関係性の小さな変化がお芝居全体に波及していきます。
西川:わざと喧嘩売るみたいに言ってみて。
西川:語尾の「~~わ」は念を押すように。
西川:これでもか、これでもかと追い打ちをかけるように攻めて。「ここで積年の恨みをはらす!」ぐらいに。
西川:ここの「ちょっと!」は呼びかけじゃない。語尾を下げて。「何やってんの、やめてよ」と相手を止めるための「ちょっと!」だから。
セリフだけでなく動きについても改善していきます。西川さんは役柄の動線をたどって、実際に演じて見せていらっしゃいました。
西川:(誰かとしゃべっている最中に)座る動作をすれば、その関係を切ることができる。立ったままだと関係が切れないから、後で自分から意識的に切らなくちゃいけない(だからここでは座るように)。
西川:一歩踏み出して、相手に圧力をかける。
西川:座って言うのを、立ちながら言うのに変えよう。
【写真↓(撮影:藍田麻央)】
賛助出演は第5期修了生の梶原航さんと、第6期修了生の泉千恵さん。演出助手は第7期修了生の岩澤侑生子さんです。稽古場には8期生の後輩の9期生の姿もあり、主にプロンプや演出部を担当されるとのこと。また、客演の関輝雄さんと南一恵さんは文学座の俳優です。西川さんは文学座の演出家で新国立劇場演劇研修所の副所長ですから、気心の知れた座組みなんですね。過剰にピリピリすることのない、温和でリラックスできる雰囲気で、朗らかな笑い声もたびたび起こっていました。
毎度のことですが、恵まれた環境だなぁ…と思います。プロ用の稽古場でスタッフさんも一流。上演会場は新国立劇場の小劇場です。さらに今回は同研修所の公演史上、最長の6日間、6ステージ。研修生の方々のプレッシャーは並々ならぬものでしょうけれど、現場はいわゆる“ホーム”のはずなので、これからも伸び伸びとお稽古を重ねられることだろうと思いました。
【写真↓左から坂川慶成、滝沢花野(撮影:藍田麻央)】
私事ですが、この稽古場取材の後にナショナル・シアター・ライヴの『リア王』を観に行ったんです。傲慢、嫉妬、功名心などの欲望に振り回される俳優たちは、姿は人間であるものの、存在感は野獣そのものでした。『ミニマルで、シンプルな、簡単に言うと「映画的な」、リアリズムな演技形態にこそ、必須なのが、圧倒的な存在感』(竹中香子さんのブログより)なのだろうと思います。※そういう存在感の獲得方法として、山中結莉ワークショップのレポートが参考になるかもしれません。
そして西川さんの「新しいことをやらないといけない」という指導から、演出家の小川絵梨子さんの言葉を思い出しました。
小川:リスクを取ることを大事にしてください。そうすれば自由になれる。どんどん前に進んでいくことの面白さを感じてください。それを続ければ絶対に厚みが出る(小川絵梨子シーンスタディのレポートより)。
初日まで2週間もある時点で台本を離した通し稽古ができているなんて、さすがはプロの現場だと思います。ここから毎日ブラッシュアップされていくのは間違いないですよね。本番がとても楽しみです。
※戯曲「親の顔が見たい」は晩成書房から出版されています。
【親の顔が見たい】今日はしのぶの演劇レビュー主宰の高野しのぶさんが稽古場レポートに来てくださいました。高野さんには8期生の自主公演二つにも御来場いただきまして、大変お世話になっています。色んな方が支えて下さるぶん、ちゃんとお返ししようと思いました(>_<)
— 薄平広樹 Usudaira Hiroki (@USD_hiroki) 2014, 8月 22
新国立劇場演劇研修所よりありがたいコメントをいただきました。以下、facebookページより(2014/08/27)。
先週、稽古場にいらしてくださった高野しのぶさん。 Webサイト「しのぶの演劇レビュー」という演劇サイトを 主宰していらっしゃいます。 演劇公演のレビューや情報だけでなく、貴重なワークショップや オーディションに関する情報を多数公開し、「演劇の将来」の ための活動に、惜しみない愛情を持ってサポートし続けて くださっています。 第8期生試演会「親の顔が見たい」の稽古場レポートを 書いてくださいました。豊富な稽古場写真(撮影:藍田麻央)も 合わせてご覧ください! http://www.shinobu-review.jp/mt/archives/2014/0826115236.html
稽古場写真撮影:藍田麻央
【出演】森崎次郎(同窓会長の夫):永澤洋 森崎雅子(同窓会長):荒巻まりの 長谷部亮平(教師):坂川慶成 長谷部多恵子(教師):滝沢花野 辺見重宣(いじめ加害者の生徒の祖父):関輝雄 辺見友子(いじめ加害者の生徒の祖母):南一恵 八島操(シングルマザー):西岡未央 柴田純子(いじめ加害者の生徒の母で、夫に電話するが出ない):鈴木麻美 井上珠代(自殺した生徒の母):泉千恵 中野渡正治(校長):梶原航 原田茂市(学年主任):薄平広樹 戸田菜月(自殺した生徒のクラスの担任):池田碧水 遠藤亨(新聞配達所の店長):堀元宗一朗
作:畑澤聖悟 演出:西川信廣(新国立劇場演劇研修所副所長) 美術:小池れい 照明:林悟 音楽:上田亨 音響:黒野尚 衣裳:中村洋一 ヘアメイク:片山昌子 演出助手:岩澤侑生子 舞台監督:村田明 制作:新国立劇場
【発売日】2014/07/04 A席3,100円 B席2,500円 学生料金1,000円 Z席(当日券)1,500円
http://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/140905_005443.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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