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2014年10月13日

【レポート】新国立劇場演劇マンスリープロジェクト・トークセッション「二人芝居ー対話する力ー」10月12日(日)18:00~新国立劇場小劇場

 新国立劇場演劇部門のシリーズ企画「二人芝居ー対話する力ー」の3作品の演出をされる3人の演出家(蓬莱竜太/ノゾエ征爾/小川絵梨子)と、芸術監督の宮田慶子さんによるトークセッションです。過去のレポート⇒
 蓬莱さんが演出された『ブレス・オブ・ライフ~女の肖像~』が上演中の小劇場で行われました。

 宮田さんは昨年度の「Try・Angle-三人の演出家の視点-」でも3人の30代の演出家(小川絵梨子/森新太郎/上村聡史)に「やりたい戯曲を演出する」という仕事を依頼し、どれも充実の成果を上げて高く評価されました。今回もまた30代の演出家3人に「二人芝居の演出」を依頼され、宮田さんが若手育成に力を入れてくださっていることがよく分かります。

 宮田:演劇界の30代後半はゴールデンエイジ。「Try・Angle~」の森新太郎さん、上村聡史さんも30代後半です。

 1作目の『ブレス・オブ・ライフ…』は10/26(日)まで。すごく面白いです。私は身に詰まされて、観たその日は一日中、立ち直れなかったです(苦笑)。どうぞお見逃しなく。11月はノゾエさん演出『ご臨終』が、12月には小川さん演出の『星ノ数ホド』が開幕します。

 既に詳しいレポートを書かれたお客様がいらっしゃいます↓ので、私のと併せて補完できればと思います。

 ■3つの二人芝居の現状

 蓬莱:二人芝居は興行的に難しいので(出演者が少ないのでチケットが売れにくい)、こんな企画は新国立劇場だからできるのでは。
 宮田:二人芝居を3本連続なんて新国じゃないとできないと言われてます(笑)。

 宮田:これまでに二人芝居をやったことは?
 蓬莱:二人芝居の脚本は3本、演出は2回。でも女優2人は初めてで、翻訳戯曲の演出も初めて。
 宮田:『ブレス・オブ・ライフ~女の肖像~』(出演:若村麻由美、久世星佳)は開幕しました。ホっとしましたか?
 蓬莱:全く。二人芝居は終わりのない作業。ストーリーで見せる芝居でもない。掘れば掘るほど発見も問題もある。日々ハラハラしていて完成がない。

 ノゾエ:『ご臨終』(出演:温水洋一、江波杏子)は読み稽古から立ち稽古に入ったところ。ディスカッションの時間を多く取ってます。二人芝居は現実的な筋肉も使う(たとえばのどをよく使う)。5時間で脳が限界(今日の温水さんがそうだった)。『ご臨終』はほぼ温水さんだけがしゃべる戯曲だけれど、舞台上で持っているエネルギーは2人とも同じ。しゃべるかしゃべらないかの違いがあるだけ。江波さんの首にはじわっと汗がにじんでいた。

 宮田:小川さんの『星ノ数ホド』(出演:浦井健治、鈴木杏)は12月の上演だけど、もう読み稽古をしました。
 小川:稽古はなるべく早く始めたい。時間の量よりも日数、期間の長さだと思っている。スタートを早くしたい。1、2年前からでも早く本に触れること。その本が自分の頭にひっかかっている状態で生活を送ることができる。今回は特に複雑な戯曲なので。
 宮田:演出家にとっては早ければ早いほど嬉しい。頭にずっとその台本があるから。


 ■二人芝居ならではの苦労

 宮田:二人芝居ならではの苦労は?
 蓬莱:割とずっと困ってた。いつも緊張するけど今回も顔合わせは緊張した。稽古は「同じ釜の飯を食う」ということだから。俳優から信用を勝ち取れるか。女優2人に信頼されるかどうかは大きなところ。共通の言語をどうやって置くか。自分が演技の何を変えて欲しいかを説明する義務もある。その責任を果たせるのか。お風呂でダメ出しのシミュレーションもした(自分がこう言うと、女優さんがこう返して、それにこう返事して…等)。でも全然うまくいかなくて(会場で笑いが起きる)。自分のプランに縛られた時もあった。二人芝居だと役者さんは自分を客観視できない(2人以外の人が出るシーンがないから)。※稽古後半になってお風呂シミュレーションは不要になったそうです。
 ノゾエ:(二人芝居だと)ちょっとした言い間違いがえらいことになったりする。

 宮田:気を付けたことは?
 蓬莱:2人の女優に対して愛情のかけかたを均等にすること。等しく愛することを心掛けました。
 ノゾエ:ちゃんと話すことから始めてます。僕がどう感じるかじゃなくて、俳優さんがどう感じているか。どんなに時間がかかろうとも。
 小川:二人芝居は2度演出したことがある。『ご臨終』のように片方がずっとしゃべるタイプだったから、しゃべる方に重点を置きがちだった。でも本当は聞いている方が大事だった。二人芝居は逃げ道がない。人が少ない分、人数が多い時より稽古場にも繊細な空気が流れる。

 蓬莱:二人芝居の演出はしばらくいいかなと思う。立て続けには無理。
 小川:『ご臨終』の温水さんのお話でも気づいたけど、5時間でへとへとになるのは、演出家の自分もだ。
 宮田:稽古場がクリエイティブであるのは5時間が限度だと思う。


 ■演出家も「わからない」

 宮田:稽古場でちょっと大風呂敷広げたら大失敗したり。嘘ついちゃダメだと思う。
 蓬莱:正直にいることが大事ですよね
 ノゾエ:わからないときは、「わからない」って言う。「わからない」とすら言えず3分絶句したこともあります(笑)。
 蓬莱:絶句、ありますよね…。(小川さんもうなずく)。
 小川:適当にその場をなんとかするためにしゃべったりしてしまい、私がパニックにならないよう役者さんが察してくれたことも。自分を相対的に見た時にわからなくなる。「怒られるかも、わかってもらえないかも、自分はダメだ、演出に向いてない」…って思っちゃう。役者は繊細だって言うけど、演出家だってスタッフだってそうなんです!
 宮田:「あぁ、私最低ー!」と思うこともある。

 宮田:蓬莱さんが中庭で一人でいる姿をよく目撃しました(笑)。
 蓬莱:休憩はよく使いました(煮詰まったら休憩にする)。あの新国立劇場の稽古場にある中庭、いいですよね。
 ノゾエ:今は僕が使ってます(笑)。


 ■演出家はカウンセラー

 蓬莱:何が問題かを見つけるのが難しい。役者さんが解釈に苦しんでいるのか、相手のことで悩んでいるのか。役者さんからの情報を取りこぼさないようにする。
 宮田:演出家の指示はセリフの話し方や動き方だけではなく、俳優の思考の奥深く、生理状態にまで触れることになる。まるでカウンセラー。俳優だけでなく役柄についてもカウンセリング。すべて探ることが必要。


 ■二人芝居はプロのテニスプレイヤーのラリー

 宮田:二人芝居は何作か演出したことがある。ある時の稽古場で片方が相手の俳優に激昂したことがあり、恐かった…!
 蓬莱:二人芝居は人間力が必要。誰でも簡単にやれるわけじゃない。今回の女優さん2人は感度がいい。そういうところ(喧嘩)に入らないようにしていた。共演者という感覚を忘れていない。相手を信じることを手放さないのが大事。
 宮田:二人芝居は一球も間違わずに2時間続けるテニスのラリー。お互いがプロのテニスプレイヤー。

 宮田:ノゾエさんは過去に二人芝居をやったことはありますか?
 ノゾエ:自分で書いて演出したことがある。壁かけ型の扇風機に長い髪が絡まった女性がいて、そこに男性が現れる。
 宮田:面白そう!
 ノゾエ:ニューヨークでリーディング上演されることになりました。
 蓬莱:リーディング…一番面白い絵(扇風機に長い髪が絡まった女性を男性が発見する冒頭)が伝わらないですね(笑)。


 ■毎回、戯曲の書き方がわからなくなる

 宮田:蓬莱さんとノゾエさんは劇作家でもあります。演出家は劇作家をとてもリスペクトしている。どうやって書くんでしょう?動機は?
 蓬莱:二人芝居は制限がはっきりしているから瞬発力で早く書ける。人物の造形をしっかりしていれば、自分の作為から離れられる。2人がしゃべっていることの記録を取っていく感じ。神様のように彼らが一番ゆさぶられる題材を投下する。いたずらをするように。だから『ブレス・オブ・ライフ』も早く書けたんだろうと思っていたら、1年かかっていたそうで…すみません。
 ノゾエ:二人芝居はアイデアが見つかれば早く書ける。扇風機の二人芝居は比較的早く書けた。

 蓬莱:動機は…自分の感覚や経験を観客にしてもらえたらいいなと思う。それぐらいファジー。
 ノゾエ:毎回どうやって書いたのかわからなくなる。
 蓬莱:(頷く)
 ノゾエ:自分の昔の戯曲を読んでよく書いたなぁ、よくできてるなぁと思ったりする(笑)。ランナーズハイのようなライターズハイはあると思う。違う領域に入っていくような。朝起きて読んで「え、これ誰が書いたんだろう?」と思ったり。
 蓬莱:本当に他の誰かが書いたのかも(笑)。


 ■二人芝居は埋もれた宝庫

 宮田:私は『セイムタイム・ネクストイヤー』『紙風船』などを演出したが、どれも素晴らしい戯曲。二人芝居はとても可能性がある。埋もれた宝庫のよう。見た目でなく(出演者が2人というのは地味に見えるかもしれないけど)中身のダイナミズムを味わってほしい。


出席者:蓬莱竜太(劇作家・演出家)/ノゾエ征爾(劇作家・演出家)/小川絵梨子(演出家・翻訳家)
聞き手:宮田慶子
シリーズ企画「二人芝居―対話する力―」で、同時代の海外戯曲三作品の演出を担う3人の演出家が一堂に会し、演劇の最も基本となる形態である「二人芝居」の楽しさ、難しさ、そしてどのように作品に挑むのかを存分に語り合います
無料。要予約。
http://www.nntt.jac.go.jp/play/monthly/※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2014年10月13日 18:05 | TrackBack (0)