新国立劇場演劇研修所第8期生によるリーディング公演です。試演会ではなく無料の特別公演のようですね。演出は宮田慶子さんです。
『五月』は『美しきものの伝説』『ブルーストッキングの女たち』などで有名な宮本研(1926年-1988年)が昭和32年に発表した戯曲です。上演時間は約1時間35分。
端正な演技で戯曲の面白さを丁寧に伝えてくださいました。新国立劇場ではいい戯曲に出合えます。本当にありがたいです。
8期生の作品を観るのは自主公演も含めるとこれで5作目になります(過去レビュー⇒1、2、3、4)。どなたも回を重ねる毎に成長されているように思います。さらに1月、3月に2度も修了公演があるなんて、特別な年ですね。来年も楽しみです。
☆12月7日(日)に同研修所の説明会が開催されます。お申し込みはメールで、〆切は12月5日(金)。
⇒CoRich舞台芸術!『五月』
≪あらすじ≫ 公式サイトより
昭和32年4月中旬の日曜日の午後、農業省係長を務める佐久間量平宅には、長女雪枝の縁談の相談に課長横山の夫人が訪ねてきている。妻・君子は横山夫人から夫の課長昇進の話を聞き、心浮かれる。が、量平に訊ねると「考えさせて下さい」との返事をしたと言う。1週間後に、労働組合の書記で九州でストライキを起こした長男・弘が帰宅する。会社の演劇部の活動に熱心な次女・泉、大学に入学したばかりの次男・達二。5月を前に、量平に正式な辞令が出る......。
≪ここまで≫
舞台に段差はあるものの、譜面台(って言うのかな)に置かれた台本のページをめくりながら読む、オーソドックスな朗読劇でした。衣装、照明、音響効果も細かく演出されていました。⇒舞台写真
敵は家の中にいる。自分を育ててくれた親や愛する伴侶こそが、自分の本当の敵なのかもしれない。人間ってそういうものだと思います。この劇の舞台となった佐久間家もまさにそう。まずは嫁姑が犬猿の仲。そして役所勤めの真面目な父(坂川慶成)と、労働組合の運動に熱中する長男(永澤洋)との静かな対立。他にも一方的な主従関係や本音を言えない親子関係などが、平凡な家族の会話からじわじわと見えてきます。お見合い結婚、学生生活、就職、会社内の部活動、出世…ごく平凡な人々が経験する数週間の出来事に、人間社会が凝縮されているようでした。派手じゃないけれど、とても面白い、いい戯曲だと思いました。
出演者の皆さんは公演ごと成長されて、安定感が増していると思います。透明感のある声と演技でセリフをはっきりと伝えてくださいました。意味も感情もきちんと意図通りに表されていたと思います。ただ、少々素直すぎるというか、一本気すぎるというか。もうひとつ外側の何か、もしくは余白、余裕、それとも深みというのか…(うーんうまく言えない)が、欲しいなと思いました。
下手端の横山夫人役の西岡未央さん、上手端の演劇部員(衣装・小道具担当)役の薄平広樹さんは役人物としてそこに居ることに加えて、役づくりのために色んな挑戦をされたことが伺える演技でした。積み重ねた稽古の厚みが嫌みなく発揮されていて良かったです。
リーディング公演「五月」無事に終演いたしました。多分、初めて"何か"に委ねなかった作品です。まだまだまだまだ足りないこと、出来ないこと多すぎますが、やっぱり役者は楽しい。想像することは楽しい。ご来場ありがとうございました! pic.twitter.com/xex2Iqnj8p
— すみな (@xsuixx) 2014, 12月 1
ここからネタバレします。
父の課長への出世、そして長女の縁談は狡猾な上司たちの仕組んだ罠かもしれない。実際、父にはある企業からわいろの現金が届いていました。長男のその指摘に対して、父は最初はしらを切りましたが、結局、課長への出世と同時に熊本への異動という、左遷の辞令が出てしまいます。つまり父は上司の命令を聞かなかったんですね。悪いことができないんだなぁ、お父さん。
なんとも苦い心持ちになりますが、こういうことって現実にもよくあると思います。最後の場面で大学生の次男(堀元宗一朗)が母(荒巻まりの)に言っていたように、自分次第なんですよね。自分がやりたいことを、やる。自分がやりたくないことは、やらない。そういう風に自分で自分を納得させられたら、生きやすそうです。
父の左遷と長女の破談が決まった日に祖母が突然亡くなり、ほぼ1週間後のメーデーは父母、そして長女が熊本へ引っ越す日になります。長男と次女(と演劇部員)はメーデーのデモへ。次男は「自分の力で生きていきたい」と母を説得。すると父母と一緒に熊本に行く予定だった大人しい長女(滝沢花野)までもが「この家に残って自分で生活する」と言い出します。なんと、一家離散…。前向きとはいえ、母が絶句する気持ちはよくわかります。年寄りは逝く。子供は巣立つ。時代は変わる。自分が思っているよりも変化のスピードは速く、世代間ギャップも大きいのだと思います。今の私にぴったりの戯曲でした。
出演:新国立劇場演劇研修所第8期生(母:荒巻まりの 次女・会社員:池田碧水 祖母:鈴木麻美 長女:滝沢花野 横山夫人:西岡未央 次女の友人・演劇部員:薄平広樹 父・佐久間量平:坂川慶成 長男・労働組合書記:永澤洋 次男・大学生:堀元宗一朗)、ト書き:泉千恵(第6期修了)
脚本:宮本研 演出:宮田慶子 【音響】上田好生 【照明】塩澤しのぶ 【舞台担当】吉田信夫
【演出助手】チョウヨンホ 制作助手:金指諒子 主催:制作:新国立劇場
料金:無料 ※観劇のお申込みはwebにて受付します。
http://www.nntt.jac.go.jp/play/training/news/detail/141021_005921.html
http://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/141101_005927.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
★“しのぶの演劇レビュー”TOPページはこちらです。
便利な無料メルマガも発行しております。