前川知大さんが作・演出される人気劇団イキウメ。今回のタイトルは『聖地X(エックス)』で、2010年の『プランクトンの踊り場』をブラッシュアップした作品でした。上演時間はカーテンコール込みで約2時間5分。
ストーリーは2010年版と同じといえば同じですが、単語はアップデートされています。一部キャストも違いますし、そもそも演技が違うので伝わる印象は変わってきます。舞台美術、照明、そして演技との盤石のコンビネーションで、演劇ならではのアナログさを生かした演出も楽しめるSF娯楽作。客席では大いに笑いが起こってました。
⇒CoRich舞台芸術!『聖地 X』
イキウメ「聖地X」今日~5/31まで。
今回のネタ(題材)は、
記憶と記録、思い込みで変わる世界、錯覚、場所の力、祈りの効果、兄と妹、ドッペルゲンガー、
などとなっております。
— 前川知大 (@TomoMaekawa) 2015, 5月 10
≪あらすじ≫ 過去レビューより。役者名を一部変更。
要(伊勢佳世)は滋(浜田信也)との離婚を決心し、ぐうたらな兄(安井順平)が一人で暮らす実家に帰ってきた。
同じ町の商店街で飲食店をオープンしようとしていた島(森下創)は、店で次々とおかしなことが起こり困り果てている。
要が出て行ってからもいつもと変わらず東京で働く滋の携帯に、おかしな電話がかかってきた。「あなたは本当に東滋(あずま・しげる)さんですか?」
≪ここまで≫
今回のイキウメは…洗練されてる!たとえば衣装!色味や生地がパっと晴れやかで、俳優さんのスター性がかなり増してます(笑)。わーこんなにイケメンだったっけ、こんなにレディーだったっけ??と目を見張りました。靴も効いてます。俳優さんが美しくなるのは大歓迎。こういう変化は大好きです。
凹凸のある壁に囲まれた抽象美術で家具や小道具は具象。色んな椅子が無造作風に並んでいて、それがまたおしゃれ!自然な会話からするりと虚構へと導く工夫が多々施されているのも楽しいです。下手の壁を移動させて場面転換する際、照明の色と角度の変化でさまざまな影が出ます。ゆるやかに動きながら変容する景色に見とれつつ、進行する物語と重ねて色んな想像をしました。
奇妙な力が宿る土地、聖地X。そこが神聖な場所となるかは、訪れる人の想像力次第_。イキウメ『聖地X』東京公演、明日5/12~5/31までシアタートラムにて上演いたします。 昨日のプレビュー公演を終え、本日は舞台稽古。じっくり、じっくり。 pic.twitter.com/IT5Udg8xcO
— イキウメ/カタルシツ (@ikiume_kataru) 2015, 5月 11
劇団員の俳優さんはそれぞれに前進されているなぁと思いました。ただ、私が観た回については全体的に先が読めてしまう演技で、笑ったりはできなかったです。がっちりとした安定感は高品質の証ではありますが、その場で生きる演技とは違うように感じました。
要役の伊勢佳世さんは重量感がある太い声が出て、声のバリエーションも増えていて、また演技の幅が広くなってるように思いました。シェフ役の大窪人衛さんは黒い半そでシャツで上半身のがっしり感が出ていて、テキパキと前のめりに行動する姿から、力仕事をする人に見えました。今までに観たことのないキャラクターだったな~。常に驚きをくれる演技で魅せてくださいました。2016年の『焼肉ドラゴン』はきっと長男役ですよね。楽しみです。
【舞台写真↓左から:浜田信也、岩本幸子(撮影:田中亜紀)】
ここからネタバレします。ストーリーは過去レビューに書いています。
滋が(風俗で)使い込んだ300万円を不問にすることを条件に離婚が成立し、要はすっきりした様子。おそらく3人目のドッペルゲンガーも消滅したのでしょう。信じたことを実現する力を持つレストランは更地になります。不法投棄防止策として、その更地にはしめ縄を巻いた大き目の石を置くことにしました。すると、なんとなくご利益がありそうな場所になりました(←冒頭と最後に壁の上のスペースで演じられました)。世界には人が入り込んではいけない場所があって、昔の人はそうやって目印を付けていたんですね。だから古いほこらを勝手に移設して家を建てたりしてはいけない…。
あぁ、何かと重なる、私はこれを知っている…と思ってしばらく考えてみました。そうだ、高レベル放射能廃棄物の地層処分だ。100年前、1000年前の目印でさえ、こうやって人類は忘れてしまうんだから、10万年以上なんて絶対に持たない。きっと誰かが掘り起こしたり爆破したりする…はぁ…。そういえば前回は2010年でしたから震災前だったんですね。私の世界は全く別のものになってしまいました。
≪東京、大阪≫ 舞台写真は劇団から頂戴しました。撮影:田中亜紀
【出演】滋(要の夫):浜田信也、要の兄・輝夫:安井順平、要:伊勢佳世、不動産屋・輝夫の同級生:盛隆二、滋の同僚:岩本幸子、レストランオーナー・島:森下創、料理人・藤枝次朗:大窪人衛、家政婦:橋本ゆりか、大学生:揮也
脚本・演出:前川知大 ドラマターグ・舞台監督:谷澤拓巳 美術:土岐研一 照明:松本大介 音楽:かみむら周平 音響:青木タクヘイ 衣裳:今村あずさ ヘアメイク:西川直子 宣伝美術:鈴木成一デザイン室 イラスト:チカツタケオ 制作:湯川麦子 プロデューサー:中島隆裕 演出部:渡邉亜沙子 高橋大輔 大久保早智恵 音響操作:堤裕吏衣 大道具制作:C-COM舞台装置 運搬:(株)マイド 主催:イキウメ/エッチビイ株式会社
【発売日】2015/04/04
一般4,200円/当日4,500円
プレビュー公演3,800円(各種割引なし 前売・当日共通)
友の会会員割引 3,800円
せたがやアーツカード会員割引 4,000円
http://www.ikiume.jp/
http://setagaya-pt.jp/theater_info/2015/05/x.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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