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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2015年05月20日

ホリプロ『舞台「夜想曲集」』05/11-24天王洲銀河劇場

 カズオ・イシグロさんの短編小説集の3編を構成し、1つの戯曲として舞台化。主演はこれが初舞台となる東出昌大さんです。上演時間は約1時間50分、休憩なし。⇒公演公式ツイッター

 脚本は長田育恵さん、演出は小川絵梨子さん。パンフレットに掲載された鼎談によると、音楽の阿部海太郎さんを合わせた3人全員が、1977年、1978年代生まれの同世代とのこと。メインスタッフが若い座組みなんですね。

 俳優の息が合っていて、とても透明感のあるお芝居でした。舞台に立っている人たちがちゃんと心のコミュニケーションをしていて、ぶつかったり、響き合ったりする度に、鮮やかな反応が見て取れました。どんな規模の公演でも、生きた役人物による交流に嘘を作らない。さすがは小川さんの演出だと思いました。小川さんの演技・演劇についてのご発言をまとめたエントリー⇒

 ⇒CINRA「東出昌大が初舞台で主演に挑む、カズオ・イシグロ原作の『夜想曲集』
 ⇒CoRich舞台芸術!『舞台「夜想曲集」

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
ヴェネツィア、アメリカ、イタリア。
三つの都市のあるホテルで交差する、音楽と人生の物語。

『老歌手』
旧共産圏出身のヤン(東出昌大)はヴェネツィアの広場で観光客相手に演奏をしていて、亡き母が大ファンだった往年の歌手、トニー・ガードナー(中嶋しゅう)が広場のカフェに座っていることに気付く。トニーは妻のリンディ(安田成美)を連れて旅行中で、今夜ゴンドラから妻にセレナーデを歌う計画なのだという。その伴奏にギタリストを探していると聞き、ヤンは喜んでその役を買って出るが、そこにはガードナー夫妻が秘めた複雑な想いが詰まっているようで―――

『夜想曲』
実力はあるのに売れないサックス奏者のスティーブン(近藤芳正)は、妻に逃げられ、人生のどん底に。妻と再婚相手の男から慰謝料代わりに勧められた整形手術を半ばやけっぱちで受ける。ビバリーヒルズのホテルで療養していたある日、ホテルの隣人が有名なセレブリティ、リンディ・ガードナーだと知らされる。才能もないのになぜか有名であり続ける女、最初はリンディを毛嫌いしていたスティーブンだったが、ある口論をきっかけに彼女の本当の姿を知り―――

『チェリスト』
旧共産圏の故郷を出て間もない頃、イタリアで音楽家になる夢を追いかけ、街中で演奏をしていたヤンは、バカンスに来ているというアメリカ人女性、エロイーズ(渚あき)から、演奏が間違っていると指摘される。彼女は高名な音楽家であると名乗り、ヤンに個人教授を申し出る。最初は怒りと戸惑いで半信半疑だった彼も、彼女のレッスンを受けるうち、真の音楽に近付いている実感を持ち始めていた。そんな折、ヤンは彼女が長年抱えてきた大きな秘密と対峙し―――
 ≪ここまで≫ 

 原題が「ノクターン」という小説で、全編をつなぐテーマは音楽です。音が鳴っていない場面でもひたひたと音楽があふれていて、出演者も観客もそこで一緒にたゆたっているような幸福な感覚が得られました。俳優さんは心をくるくると変化させ、滑稽で愛らしい人間の姿を体現してくださって、私は何度も吹き出し笑い。でも周囲からはあまりそういう声は聞こえなくて意外でした。繊細な心の動きが見どころのストレート・プレイなので、天王洲銀河劇場は少々大きすぎたのかも?私は上手ブロックの比較的前方だったせいか、演技もしっかり見えました。後方席だとどうなのかな~。

 初舞台の東出昌大さんは純粋、朴訥な存在感で、打てば響くような気持ちの良い演技をされていました。きっととても素直な方なんじゃないかしら。共産圏出身の「東側から来た」若者なので、欲を言えばもう少し頑ななところも見つけたかったです。チェロをとてもよく練習されたのがわかりました。

 大スターのリンディ役の安田成美さんは『クリプトグラム』(小川演出)も良かったですが、今回の方がずっと素敵!セレブリティーの華やかさ、美しさを立っているだけで表現できているのが素晴らしい!整形手術直後で包帯で顔を覆ったままなのに、心の動きがきちんと伝わります。無邪気でわがままで芯が強い性格も、好感を持てる演技で細やかに表してくださいました。

 実力はあるのに売れないサックス奏者スティーブンを演じた近藤芳正さん。近藤さんも『OPUS/作品』で小川演出を受けてらっしゃいます。ためらい、悩み、揺れ動く弱さが素直に出ているから、怒ってもキュートなんだろうなと思います。きびきびした演技で、ストーリーの節目をはっきりさせる役割を果たしてくださったようにも思いました。

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 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。

 舞台美術はこんな感じ↓でした。うっすらと柄が入っている灰色っぽい壁の上部は、アーチ型になっています。


 2階建ての抽象的な装置で、中央奥でシャンデリアが上下したり、下手にはたっぷりとしたドレープの赤いカーテンが現れたり。う~ん、ちょっと取ってつけた感があって、私は苦手でしたね。具象を重ねれば抽象にもなると思うので、そういう方向性で観たかったかも。

 旧共産圏出身のヤン(東出昌大)にチェロの指導をする謎の女性エロイーズ(渚あき)は、幼いころからプロの教師に指導を受けており、11歳の時に自分の音楽を守るためにチェロを弾くことを辞めたと言います。果たして彼女は本当にチェリストなのかどうか。この作品では「彼女は本物のアーティストである」と解釈しているようで、私もそのとおりに受け入れました。その方が面白いと思ったし、彼女の発言は信用に足りると感じられたからです。渚さんの演技については、もっと振れ幅を広くして、柔軟さを持たせてもいいんじゃないかとは思いましたが。

 世界はたとえ無音の状態でも音楽で満たされており、それを感じ取る能力がある人だけが、楽器を通じて音を奏でられる…とエロイーズは言います。才能のある者だけが持つ喜びがあり、苦しみがある。天才と凡人の差は残酷だけど存在しますよね。
 実力がない自分を奮い立たせ、手段を選ばずスターにのし上がったリンディと、サックスの腕は一流だけど世間に迎合することができないスティーブンの対比は鮮やかで、2人が本音で話すのが面白いです。スティーブンの音楽に嫉妬してムっとしたリンディの行動がとても好きでした。強がっているのが可愛いし、すぐに素直に認めるのもまた可愛い。

 リンディと年の離れた夫のトニー・ガードナー(中嶋しゅう)は、今も本気で愛し合っているけれど、お互いに高みを目指すことを優先し、離婚します。人間の寿命はとても長くなってしまったから、こういう転換が起こるのは自然なことだと私は思います。トニーがどうなったのかはわかりませんが、リンディが堂々と前に進んでいる姿は潔く、すがすがしかったです。本当は悲しみと苦悩の日々を送っているかもしれない、でも彼女は自分の選択を後悔していないように見えました。

 私は初日に拝見しまして、しょっぱなから東出さんと中嶋しゅうさんの場面でセリフが飛んだようなのですが(笑)、協力して挽回していく関係性がとても温かく、柔らかで、ドキドキしつつも微笑ましく眺めていました。そういえば『History Boys』(小川演出)の初日でも浅野和之さんがセリフを忘れて止まっちゃったんですよね(笑)。あの時も高校生役の若い俳優たちがフォローして、浅野さんがそれを受けてがんばる様子がとても良かったんです。稽古場で培ったものがそのまま本番に出るものなのだなぁと思います。

出演:東出昌大、安田成美、近藤芳正、渚あき 入来茉里 長谷川寧、中嶋しゅう
【ミュージシャン】高橋ピエール(ギター) 守屋拓之(コントラバス)
原作:カズオ・イシグロ(原題「Nocturnes」 土屋政雄訳)
脚本:長田育恵
演出:小川絵梨子
音楽:阿部海太郎
美術:やなぎみわ
照明:原田保
音響:中島正人
衣裳:前田文子
ヘアメイク:鎌田直樹
演出助手:大澤遊
舞台監督:二瓶剛雄
ステージング:長谷川寧
プロデューサー:篠田麻鼓
主催:ホリプロ/銀河劇場 
協力:早川書房 
企画制作:ホリプロ
【休演日】5/13,19 S席8,500円 A席4,500円 U-25チケット4,500円
http://hpot.jp/stage/nocturnes

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2015年05月20日 18:36 | TrackBack (0)