ドイツの公立劇場でレパートリー作品『水の檻』を製作してこられた、庭劇団ペニノのタニノクロウさんら3人が登壇するフォーラムを拝聴しました。刺激的で充実した内容でした。
タニノさんと美術・衣装担当のカスパー・ピヒナーさんの話しかたや、存在のしかたが美しくて、とても心地よい時間でもありました。率直で、自立していて、他者(参加者)と対等に接する姿勢にも感動。アーティストは地球の宝だと思いました。
【登壇者】
タニノクロウ(劇作家・演出家、庭劇団ペニノ主宰、『水の檻』作・演出)
カスパー・ピヒナー(舞台美術家、『水の檻』舞台美術・衣装担当)
日比野啓(成蹊大学文学部准教授、演劇研究、『水の檻』通訳担当)
※モデレーター・通訳:萩原健
『水の檻』については以下が詳しいです。感動的な内容です。ぜひお読みください。
⇒「死者への鎮魂と慰撫と ── タニノクロウ作・演出『水の檻』」(日比野啓)
庭劇団ペニノ主宰・タニノクロウ氏の『水の檻』ドイツ公演についてのパブリックトーク。 サラサラとwittyに話していたけれど、タニノ氏のチャレンジは相当なもの。 アーティストとスタッフの理想的なあり方について深く問われる内容だった。 pic.twitter.com/sKIkITwVyz
— 門田美和 (Miwa Monden) (@yfresas) 2015, 6月 6
以下、私がメモした内容を掲載します。フォーラムの内容のごく一部であり、正確性の保証はできませんので、そのおつもりでどうぞ。
■ドイツの公立劇場からの依頼
タニノ:『水の檻』は2011年の原発事故をきっかけに、自分を日本人と思いこんで、狂ってしまったドイツ人男性が主人公の一人芝居。彼の職業は日本研究者。最初の依頼が、福島のことを描くこと、日本らしいもの、一人芝居という3点だった。かなりきつい。最初は断った。(他の知人から)「国際共同製作でいい作品なんて観たことない。ドイツの公共ホールはでかいマシン(機械)だから、その中でいい作品ができるわけない」と、なかば脅されてたのもあって。でも熱心に依頼をして来られたから、スカイプで英語で話をしてもわからないので、出向いた。今考えるとそれが良かったと思う。※創作開始の前に何度もドイツに通われたそうです。
タニノ:クレフェルトの街の大きさは長野県の松本と同じぐらい。公共ホールがあるのも同じ。
日比野:オペラとバレエがあるのも同じですね。
■自分のやり方を貫いた
タニノ:今回の国際共同製作で、何を発見したのか、持って帰ってきたのか(が重要)ですよね。
日比野:タニノさんは俺流を貫いた。やっかい者として最後までやり通した。ドイツの公共ホールというシステムの前に、そういう存在として立てた。
タニノ:たしかに、戦った、ということはある。
日比野:形式的なこと、儀礼的なことを取っ払った関係で居られた。
タニノ:本来は劇団でないと面白いものは作れないと思っていた。(私は)考え方が古いんです。今回はいい作品を作れる関係があった。そういう時間を持てた。
日比野:少人数の稽古場だった。個人的な関係を結んで作品を作ることになった。家族のように。稽古が終わると毎日飲みに行った。
タニノクロウ作・演出「水の檻」のトレーラーが公開されました!
https://t.co/THjilBI55C
— 庭劇団ペニノ (@niwagekidan) 2015, 4月 3
■公立劇場はそれぞれ
タニノ:稽古はいつも通りにできた。ドイツの劇場にはスタッフも場所も何でもそろっている。レパートリー・システムなので、俳優はほかの複数の公演に出演しながら稽古をした。1時間半もある一人芝居なのに、最初の1週間でセリフを全部覚えてた。
でも劇場に入ってからの10日間は戦場だった。ドイツの公共ホールでいい作品を作るためには、どの劇場がいい、とかあるのか?
ピヒナー:運に尽きる。どこの劇場も似たシステムだけれど、そこに居る人が異なるから。劇場によって違う。
タニノ:クレフェルトの劇場にとって、我々2人はどんな存在だったんだろう。
ビヒナー:エイリアン(異星人)。
■ドイツでの評判
タニノ:『水の檻』の評判は実際のところどうだったんでしょうか?
萩原:残念ながら全国紙では取り上げられませんでしたが、地方紙(州の新聞)では複数の劇評が出ていました。ドイツは新聞が良く読まれているので影響力があります。有名なラジオでも取り上げられていたので、良かったのではないか。
ピヒナー:ドイツはラジオ、テレビ、新聞の影響力は同じぐらい。
■タニノさんとカスパーさんとの信頼関係
タニノ:会話は英語で行った。自分にとって英語は情報でしかないから、本当にわかるまでに時間がかかる。タイムラグがある。カスパーも自分と同じ立場(劇場職員ではなくゲスト)であると理解するまでにも、とても時間がかかった。
タニノ:カスパーと話す時は「日本はどんな国なんですか?」といった、いわゆる外国人と話す時の定番の質問などは全くなかった。最初から個人として話をした。「あなたは何者なんだ?」と。お互いに100%自由。朝から晩まで2人でしゃべりっぱなし。英語だけれど、他の人が聞いても理解はできないと思う。2人で新しい言葉を作っていった。やっぱり(いい作品に必要なのは)コミュニケーション。
タニノ:カスパーとはもう話すことがなくなるほど長い時間一緒に過ごした。同じものを見て、どう思うのかを。会話の7割は自然について。太陽の照り方、川の色味、あの虫が鳴いてる、風向きが変わった、それを感じてる?山の音が聴こえるのかどうか…。ただ会話をしただけじゃない。友達になろうなんて思ってない。いい作品を作るために我々の関係を研ぎ澄ませて行った。お互いの感覚を戦わせて行った。それが我々のコミュニケーションの根本だった。
カスパー:出会った時に戯曲があったわけではない。感覚的なすり合わせから始まった。そこから人物像など、作品の手がかりを集めた。
タニノクロウパブリックトーク。国際共同制作について美術担当のカスパー・ピヒナーさんらも交えたオープンな報告会。「今回の経験で、美術を完全に人に任せられるようになった」とタニノさん。『水の檻』、相当にエポッ… https://t.co/rTrQ8QeFEo
— 徳永京子 (@k_tokunaga) 2015, 6月 5
『水の檻』の美術がペニノっぽい、という感想に、ピヒナーさんは「褒め言葉と受け取ります。僕の作品を知っている人からは、ピヒナーっぽいと言われました(笑)」。劇場の人から2人のエイリアンと呼ばれていたそうで、ピヒナーさんはタニノさんと「同じ星から来た仲間」と感じているそう。
— 徳永京子 (@k_tokunaga) 2015, 6月 5
■美術を他者に任せたのは初めて
タニノ:戯曲は登場人物になったつもりで書く。だからト書きにはその人物の目に入るもの全てを、細かく書いている。見たものの形は全て書いてある。例えば障子とか、障子の隙間から漏れる音とか。すごく細かい。書き終わって演出する時になると、そんなのどうでもいいと思ってるだけど(笑)。
『水の檻』の場合、美術の70%ぐらいはカスパーの新しいアイデアの蓄積。台本では古い日本家屋の描写を細かく書いてあった。
次回公演でも美術は自分以外の人に任せます。
タニノ:(「ペニノっぽい美術だ」という指摘に対して)ユーモアがベースになって、形になっていく(だから『水の檻』の美術もペニノっぽい)。
■演劇を始めて15年経ってようやく…
タニノ:戯曲は10か月前に欲しいと言われて、(遅れて)半年前にできていた。演劇を始めて15年になるんですが、やっと気づいた。稽古開始の時に台本があるのはいい!(笑) 今までは装置を作って、そこに役者さんたちに入ってもらってから、(自分が)思いついた言葉を言ってもらって、台本を作ってたんだけど。
タニノ:毎回公演が終わると死にたくなる。あれもできなかった、これもできなかったと思うから。日比野さんに会うのも『水の檻』の公演が終わって以来初めて。携帯も何もかも切って、ずっと山にいたから。その間に次の作品の台本書けちゃった!いいこともあるもんです(笑)。
⇒庭劇団ペニノ新作公演『地獄温泉 無明ノ宿』
期間:2015年8月27日(木)~30日(日)
会場:森下スタジオ・Cスタジオ
⇒庭劇団ペニノ『庭劇団ペニノ新作をお得に楽しむ会』
期間:2015年8月20日(木)~24日(月)
☆シアターガイド 2015年05月号、06月号に、「タニノクロウ ドイツ滞在制作記」(前編・後編)あり。
東京芸術文化創造発信助成 平成26年度~28年度長期助成対象団体 活動状況報告
6月5日(金)19:00~ 参加費無料
ドイツの公立劇場で約2ヶ月の滞在製作を行った3名によるトーク。
https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/events/6122/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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