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2015年06月20日

【レポート】ゴーチ・ブラザーズ「山中結莉ワークショップVOL.2(プロの俳優向け・5日間集中)」03/16-20都内スタジオ

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山中結莉WS Vol.2

 山中結莉(やまなか・ゆうり)さんによるプロの俳優向けの5日間集中ワークショップを見学してまいりました。結莉さんはロンドン在住の俳優指導者で、ゴーチ・ブラザーズ主催のワークショップは今回が2回目になります(⇒1回目のレポート)。正式なタイトルは「プロの俳優のための【<内なる声 VOICE>を解き放つ --- 身体と表現】ワークショップ」です。私はお邪魔したのは2日目と最終日の2日間でした。
 ⇒告知エントリー
 ⇒facebookイベントページ
 ⇒結莉さんのブログの関連エントリー:

 結莉さんの情報は下記からどうぞ。
 ⇒公式サイト
 ⇒facebookページ
 ⇒ブログ

 今回もまた、結界に守られた安全な空間で、志を同じくする人々がともに心身を開き、演劇を通じて人間を探っていく、豊かで充実した創造の時間でした。

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 参加者16人は全員、結莉さんのワークショップを受けるのが初めての方々で、行われたワークやエクササイズは1回目と同じものも多かったです。このレポートでは1回目とは異なることや、2回目の参加者の声などをまとめましたので、先に1回目のレポートを読んでいただけたらと思います。


 【自分を守り他者ともつながる、覚醒された集中力】

 心身を開いてワークができるように、「日常から、日常を超えた世界へ」と足を踏み入れる小さな儀式が、毎日の始めと終わり、そして昼休みの前後に必ず行われました。そして1つのワークが終わるごとに、演じていたものを体から“落とす”動作も行います。軽くジャンプしたり頭や体を手で払ったりして、それまで居た世界から抜け出すのです。

 結莉:まず気の持ちようが楽になる。一番大事なのは演技をしている状態から出られること。俳優は役を演じた状態で全身全霊を使っていますよね。心身は大事に使わないと長持ちしないから、自分を守るために、意識的にそこから出るようにする。感情に境界線は引けないから、自分で自分に戻ることが大事。また、自分から入り込んでいると、お客さんを忘れている可能性もある。

 結莉さんは、俳優が自分のワークに集中すると同時に、周囲についても無視せずに居るように、注意深くアドバイスをされます。

 結莉:目の前にある、自分が今やっていることだけに集中してください。ただ、1人で行うエクササイズでも(特に指定がない限り)目を開けてやる方がいい。自分で世界を作って、目を開いた状態で他の役者さんと共有してください。よほどのことがない限り、目をつぶって演技をすることはありません。

 結莉:覚醒された集中力を高めたい。昔の武士の真剣勝負を想像してください。見ているのは決して目の前だけじゃないですよね。360度全てに感覚が開いている。物理的に360度ということだけなく、彼らのような研ぎ澄まされているのと同時に開いた集中力が、役者にもあるといいなと思います。

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 【人間探求】

 真実の演技の方法を獲得するために色んなエクササイズとワークを行っていくわけですが、フィードバックで自ずと話題にのぼるのは、人間そのもののこと。結莉さんは人体の科学的な側面からも、演技について教えてくださいます。演技を学ぶことは、すなわち人間を学ぶことなのだと何度も気づかされます。

 結莉:人間は潜在意識がすごい。潜在意識に動かされていることの方が大きい。
 結莉:脳みそは草原のようなもの。けもの道のように、通れば道が出来る。色んな道を通ってください。体が変わると声も変わる。色んな体になると、色んな声が出る。色んな役ができる。

 結莉:自分の中にある、自分があまり好きではないと思うもの(短所)をつぶそうとするのではなく、 好きなもの(長所)を大きくしましょう。そうするとその好きでない部分が自ずと小さくなる。脳は「ない」という否定の言葉を認識しない。人間は「こうしちゃいけない」と思ったことを、そのままズドンとやってしまうものです。それを肯定的な言葉に180度転換するといい。例えば、自分の癖が頭をかくことだったら「頭をかかない」というのではなく「腕を体の両脇に下ろしておく」に変えるなど。「頭をかかない」の中には「頭をかく」というイメージが入っているので、体はそちらの方に行ってしまう。


 【シンプルで具体的/核の自分さえつかめば、どこにでも行ける】

 仰向けに寝転がって手足、頭を均等に動かしたり、セリフを言いながら椅子を持ち上げる動作を繰り返したり、動きの速さや相手との距離を変えて色々試したり、基礎的なエクササイズやワークが行われました。作業そのものは簡単ですが、行っている時に自分の外側と内側の両方で大いに変化が起こるため、それをつぶさに観察し、味わい、分析して、課題を見つけては挑戦していきます。

 結莉:俳優が楽(らく)にやっていると、見ている方(観客)も楽に役の人物に入っていけます。

 結莉:ニュートラルな自分の状態を知って、 核の自分さえつかめば、どこにでも行けるようになる。技術、表面、TPOに合わせてやっていると、現場が変わればまた全部取り換えなきゃだめになる。どんな現場でも使えるように核をつかみましょう。

 結莉:俳優は半分アーティストで半分職人。道具があり、その使い方を伝えています。今やっていることは、実は、イギリスの演劇学校では3年間かけてやることなんです。それを蒸留してろ過し、最後の一滴になったところを、5日間でやっています。シンプルで具体的ということ。その信頼と強さ。それに尽きます。

 結莉:やったことは全部体に残っているから、あせる必要はない。あまりにシンプルだから、絶対に忘れない。それをつかめば、いつでも、どこからでも、戻って来られる。


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 【目的と超目的】

 はじめの3日間はエクササイズとワークを継続して、残りの2日間でモノローグ(独白)とダイアローグ(対話)に取り組みました。参加者の男女比がちょうど半々ぐらいだったので、男女のペアが8組できました。ダイアローグのペアでのワークも行い、人前での発表の前に豊かな交流がいくつも生まれていました。

 戯曲の登場人物には、ある場面での目的と、人生をかけて達成したい目的(=超目的)があります。モノローグでもダイアローグでも、俳優が演じる人物の背景をつぶさに明らかにすることから始まり、目的と超目的を見つけていきます。

 結莉:俳優は他人の人生を生きるんだから、分析して確認して、体に入れて、役自身として演じるのです。役の目的を知れば、役の人生を生きられる。目的をしっかり持っていれば、相手をよく見て、よく聞いて、反応し合うだけでいい。(観客は)真実のものを見たり聞いたりすると、すぐにそれが真実だとわかる。そういう演技はずっと見ていたくなる。

 結莉さんは俳優に「役の家族構成は?生い立ちは?職業は?」と次々に問いかけ、質問攻めにします。そして一緒にじっくりと、役の目的と超目的を探していきます。目的は割とすぐにわかるのですが、超目的は人によってはなかなか見つけらないこともありました。

 結莉:何が起こるとその人物は幸せになりますか?超目的とはまだ手に入っていないものです。役が一生かけても手に入らないかもしれないもの。超目的は役の深層心理に埋め込まれている。役はそれを知らなくても、役者は絶対に覚えておくこと。
 結莉:場面の目的と超目的は、必ず声に出して言葉にすること。言葉にするとはっきりするから。
 結莉:超目的にするものは、100%でないといけない。1%でも違うものが混ざっているとブレてしまう。
 結莉:役は気づいてないけれど、戯曲作家は全部わかって書いている。台本に乗っかれば全部書かれているのだから、ありがたいことです。

 ※俳優が持参して使った戯曲:『ノルウェイ・トゥデイ』(ドイツ戯曲)、『るつぼ』、『近代能楽集「班女」』、別役実戯曲など。


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 【お客さんを信じていい】

 モノローグとダイアローグでは、演技をする人以外は全員、イスに座って観客になります。演劇でなくても、他人に見られるせいで緊張してしまい、実力を発揮できなくなることはよくことです。でも俳優は人に観られる職業ですから、それをどうすればいいのか。一観客として、結莉さんから嬉しい言葉を聞くことができました。

 結莉:「開く」と「安心」は違います。中に抱えているものと外に出るものは全然違う。「お客さんに見られるのが怖い」のではなくて、お客さんを味方につけることをしたい。お客さんは聞いてくれます。観よう、聞こうと思って劇場に来てくれてるんだから。お客さんを信じていい。


 【参加者の声】

 フィードバックの時に出てきた参加者の声を、一部ご紹介します。

 ・ワーク中のダンスで、自分の中だけの集中力でやってしまった。外に開く集中力が乏しいことに気づいた。
 ・けもの道を作っている感覚が実感できた。楽になることが増えた。社会生活で閉じてることに気がついた。
 ・昨日よりできることが増えている。体にゆだねること忘れかけていた。けっこう勇気のいることだ。
 ・人に伝わる動作は美しい。体がくれる感覚を素直に信じられるようになってきた。
 ・目的と超目的をひとことで言えたことで、理論から離れられた。楽になって感覚的になれた。
 ・自分には道具はあるのに使えないという悩みがあった。ワークはできても、ダイアローグがうまくいかない。体と声がシンプルにつながるようにしたいと思って、このワークショプに応募した。そして、自分で自分を邪魔してる部分が見つかり、道具と体の間を埋められた。貫通した部分もあった。
 ・自分の中のパイプにつまりがなくて、もらった道具がシンプルに使いやすくなった。こんな道具をくださってありがとうございます、という気持ち。毎日すっきりしてきた。電車の中で悩まないし(笑)、寝覚めも良くなった。実際に体でやってみれば、「あ、これ、知ってる」と思い出し、自信になると思う。


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 ●所感

 一人でワークを行っている時の、他者の目を気にせず体と声、言葉と向き合っている俳優はとても魅力的です。外への意識も開きながら自分の作業に集中している一人一人が、やがてばったり出会う時、異なる世界同士がぶつかって、空間がギュっと歪んだように感じることがありました。人間はそれぐらい強固に、自分の世界というものを生み出せる存在で、それぞれが独特です。個々の世界がぶつかる時、数えきれないほどの変化が起こります。火花が飛び散って、無数の星がパーっと散らばるような、まばゆい瞬間です。その連続を目撃できるのですから、本当に幸せな時間でした。

 俳優がそのようなワークができるのは、場が安全だから。結莉さんは隅々まで気を配り、制限を与え過ぎず、選び抜かれた言葉を落ち着いて語りながら、守られた空間を作り、維持してくださいます。ワークの時も、ダイアローグの指導においても結莉さんは素早く、的確にアドバイスをされていて、「一体なぜそれが今わかっちゃうの?!」と驚くことがしばしばありました。理論も経験もお持ちですが、おそらく直観もとても大切にされているのだと思います。
 
 私は2日目と最終日を見学させていただきました。最終日はダイアローグの日。役人物の背景をとことん調べ、その心を探って役柄を掘り下げていくと、役柄が魅力的に立ち上がって、一人一人が愛らしくなりました。物語もどんどん面白くなっていきます。男女のペアだったこともあるかもしれませんが、超目的を探っていくと、どの戯曲でも似たようなことが見つかっていきました。「愛する人に愛されたい」「そのままの自分を認めて欲しい」「安らぎを得たい」「安心して、安定した暮らしをしたい」など。人類の望むことは同じだな、それだけなんだなぁとしみじみ感じました。超目的を見つけるにはセンスや洞察力が必要で、それはもしかすると人間力と呼んでもいいのかもしれません。俳優は選ばれた人だけがなれる職業なのだと思います。

 前回よりも参加者の年齢層が高かったのもあってか、今回の方が進みが早いように感じました。プロとして活躍している期間が長くて、成熟した大人が多かったのだと思います。また、2回目なのでワークショップの主旨や内容をよく知った上で参加されているため、固く構えたり、他人を試したりしないから、スピードが速いし密度も濃くなる。こればっかりは集まった俳優の顔ぶれ次第なんですよね。結莉さんのワークショップが継続開催されて参加者が増えていけば、共通の体験を持つ俳優のコミュニティーが生まれ、より高度でチャレンジングなワークショップができるようになる。そして作品に活かされるのではないか…。それを願っています。

 俳優が機械のように自分を緻密にコントロールする動作をしたり、機械を電気で動かして俳優とみたてる演劇などがありますが、私はそういう作品にはあまり心を動かされません。色んな演劇があっていいし、好みは人それぞれですが、私は人間と人間の間に生まれる交流にこそ、お芝居の醍醐味があると思っています。だから結莉さんのワークショップにとても勇気づけられます。そういうお芝居が好きな仲間が増えていって欲しいと願っています。

 結莉:体が動くと感情が動く。ロボットがやってもストーリーは見えてこない。

 【参加者のツイッターより】


<山中結莉ワークショップVOL.2『<内なる声 VOICE>を解き放つ---身体と表現』>
2015年3月16日(月)~3月20日(金)
対象:プロの俳優として活動している方
募集人数:16名(応募者多数の場合は書類選考あり)
参加費:40,000円(5日間通し)
講師:山中結莉(ゆうり) You-Ri Yamanaka (俳優、俳優指導者、演劇指導者、ムーブメント・ディレクター)
参加者のニックネーム(順不同):ぐんちゃん、サイモン、ひかる、湘南、店長、矢部さん、マイキー、正、セロリ、まる、風(ふう)、きなこ、ラテ、アナ、アロマ、ヴィレヴァン、カメリア(講師)
見学日:3/17、3/20
写真撮影:木越由美子 (c)Yumiko Kigoshi
http://www.shinobu-review.jp/mt/archives/2015/0215004006.html

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Posted by shinobu at 2015年06月20日 14:03 | TrackBack (0)