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しのぶの演劇レビュー
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2015年07月17日

世田谷パブリックシアター+文学座+兵庫県立芸術文化センター『トロイラスとクレシダ』07/15-08/02世田谷パブリックシアター

 鵜山仁さん演出、浦井健治さん、ソニンさん主演のシェイクスピア作品です。2つの公立劇場と老舗劇団文学座との共同製作なんですね。上演時間は3時間弱(途中休憩1回を含む)。⇒公演公式ツイッター

 トロイ軍対ギリシャ軍の戦争のお話なのですが、どちらが強いか弱いか、正しいか間違っているかはあまり重要ではなく、登場する人々全員がみっともないという、“愚か者大集合!”な作品だと受け取りました。2012年に観た蜷川幸雄さん演出の『トロイラスとクレシダ』とは全然違う印象!蜷川版は兵士たちがもっと勇ましく、美しく描かれていたように思います。そして今回の方が喜劇性が強いですね。

 3階席までお客様がいっぱい。やっぱり浦井さん人気のせいでしょうか。素敵なキスシーンがいっぱいあったので、ファンの方はぜひ(ってどういう宣伝だ)♪

 【舞台写真(左から敬称略):浦井健治、ソニン 撮影:細野晋司】
Troilus_and_Cressida1.jpg

 ⇒CoRich舞台芸術!『トロイラスとクレシダ

 あらすじはWikipediaでどうぞ。

 急こう配の階段と岩に囲まれた濃い灰色の抽象舞台。円形ステージの左側から中央までを囲むように階段がそそりたっています。宝塚歌劇の大階段みたい。天井からは大きな赤い幕と白い幕(薄汚れた灰色かも)が垂れ下がっていて、上下したり広がったり縮まったりして、空間を変容させます。鵜山さんの幕の使い方は素敵だな~と思います。

 衣装はかなり現代風で、トロイ兵士は無地のカーキ色、ギリシャ兵士は迷彩柄の軍服です。軍服の一部に甲冑が重ねられていたり、趣向が凝らされています。女性のドレスも美しかったな~。
 衣装で陣営や役人物の性格を表現し、具象の小道具はあまり使わず、基本的には俳優同士の会話で物語が進展します。上手側には打楽器の生演奏スペースがあり、ドン!ドン!という大きな音とリズムで緩急をつけていきます。

 走ったり、飛び跳ねたり、寝転んだり、抱き合ったり。日常会話なら決してしないであろう激しい動きが組み入れられていて、稽古場で試行錯誤をしながらシーンを作って来られたのだろうなと思いました。ただ、作ったとおりの演技を再現しているようにも見えて、あまりセリフが伝わってこなかったんですよね…。人物相関図が頭に入るまでに時間もかかりました。でも最後まで観たら、誰がどこの国の人で…等をあまりわかっていなくても、意図は受け取れたような気がします。

 【舞台写真(左から敬称略):浦井健治、江守徹、木津誠之、浅野雅博 撮影:細野晋司】
Troilus_and_Cressida2.jpg

 ここからネタバレします。

 愚か者っぷりが一目でわかるのは、ギリシャ軍のアキリーズ(横田栄司)とその“男妾”と呼ばれるパトロクラス(高橋克明)。なんとドレッドヘヤーに刺青、そしてサングラス!横田さんの毛皮のコート&パンツ一丁(しかも布が小さい…)の姿は破壊力がありました(笑)。

 トロイラス(浦井健治)と一夜を共にしたクレシダ(ソニン)は、トロイからギリシャに移ったとたん、ダイアミディーズ(岡本健一)と恋に落ちちゃいます。そもそもトロイラスを好きになったのも、遠くから姿を見た時の一目ぼれでしたよね。女心と秋の空。
 クレシダがギリシャに連れて来られて、ギリシャの兵士たちの前に初お目見えする場面で、彼女は次々にキスをされていきます。あんなにトロイラスと熱々だったのに!軽っ!!ギリシャ兵士たちが陽気で奔放な性分であることは、それまでにもよくあらわされていましたが、この場面がやっぱり印象に残りましたね。兵士たちが揃って声を挙げて勇ましく踊るのも象徴的です。

 トロイの英雄ヘクター(吉田栄作)は妻(荘田由紀)、妹で預言者のカサンドラ(吉野実紗)、そして父王(江守徹)の反対を押し切って戦場へ。油断して非武装した時に、アキリーズ(横田栄司)たちに殺されてしまいます。戦場の場面で、灰色の幕にヘクターの画像が映写され、彼自身がそれを敵だと言う演出がありました。つまり自分自身が敵だった、自分の落ち度のせいで死んだ、ということだと思いました。

 【舞台写真(左から敬称略):横田栄司、吉田栄作 撮影:細野晋司】
Troilus_and_Cressida3.jpg

 そもそもの戦争の原因であった美女ヘレン(松岡依都美)の、元夫(石橋徹郎)と現夫(浅野雅博)が戦場で出会います。寝とられ亭主と寝取った男との争い…かわいそうだし、醜いですよね。客席で暴れるのがコミカルでした。しかも石橋さんと浅野さんのペア!(お2人は2人芝居の自主公演をされています) ヘレンのイメージはマリリン・モンローかしら。金髪に胸元ががっつり開いた赤いドレス、ベージュのハイヒールがお似合いでした。

 トロイラスとクレシダの恋のトリモチ役を自任していたパンダロス(渡辺徹)は、いつも陽気で快活な様子でしたが、やがて梅毒を患って悲惨な風体になり、最後の場面では人間がいかに愚かかと、観客に語り掛けます。しかも観客の方を指さしてののしるのです。あぁ、そうか…と思いました。舞台上で醜態をさらしていた人々は、つまり、私たちなのだな、と。


※舞台写真は主催者より頂戴しました。
≪東京、石川、兵庫、岐阜、滋賀≫
出演:浦井健治、ソニン、岡本健一、渡辺徹、今井朋彦、横田栄司、鵜澤秀行、斎藤志郎、高橋克明、櫻井章喜、石橋徹郎、鍛治直人、松岡依都美、荘田由紀、吉野実紗、木津誠之、神野崇、内藤裕志、宮澤和之、廣田高志、若松泰弘、植田真介、浅野雅博、小林勝也、吉田栄作、江守徹
[演奏] 芳垣安洋 高良久美子
脚本:ウィリアム・シェイクスピア [翻訳] 小田島雄志 演出:鵜山仁 [美術] 島次郎 [照明] 服部基 [音響] 秦大介 [音楽] 芳垣安洋 高良久美子 [衣裳] 原まさみ [ヘアメイク] 鎌田直樹 [ファイティング] 渥美博 [演出助手] 稲葉賀恵 [舞台監督] 北条孝 
【休演日】7/21,27【発売日】2015/05/16
一般 S席8,000円(1階席・2階席)/A席5,500円(3階席)
高校生以下 S席4,000円/A席2,750円
(世田谷パブリックシアターチケットセンター店頭&電話予約のみ取扱い、年齢確認できるものを要提示)
U24 S席4,000円/A席2,750円
(世田谷パブリックシアターチケットセンターにて要事前登録、登録時年齢確認できるもの要提示、オンラインのみ取扱い、枚数限定)
文学座支持会・パートナーズ倶楽部優待料金 S席7,500円(1階・2階)
※文学座のみのお取り扱いです。お問合せは文学座(03-3351-7265)まで。
友の会会員割引 S席7,500円(1階・2階)
せたがやアーツカード会員割引 S席7,800円(1階・2階)
※「世田谷区民割引」は「せたがやアーツカード会員割引」になりました。せたがやアーツカード会員割引や先行発売を利用するには「せたがやアーツカード」(世田谷区在住の15 歳以上の方対象)の会員登録が必要です。
【問】公益財団法人せたがや文化財団 せたがやアーツカード事務局 03-5432-1548[10 時~19 時 年中無休(年末年始除く)] 
http://setagaya-pt.jp/theater_info/2015/07/26_201578_2.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2015年07月17日 16:31 | TrackBack (0)