クリストフ・シュリンゲンジーフ演出のオペラ『メア・クルパ(わが贖罪)』のDVD上映と、出演者の原サチコさん(⇒facebook)のトークがありました。原さんはDVDの翻訳もされています。
シュリンゲンジーフさんは49歳という若さで、肺がんで亡くなったドイツの演出家。映画監督でもあり、テレビ番組にもよく出ていらした有名人です。F/Tでもよく取り上げられていたのですが、私は初めてその作品を拝見しました。
彼と10年間も創作をともにされてきた原さんが、お宝映像とともに代表作やお人柄などを解説してくださいました。なんて凄い人…!芸術と社会がシームレスに関係し合って、芸術が社会に変容をもたらしている…。それが彼の生き方で証明されているようでした。
ご参考:ein journal「シュリンゲンジーフ展@KW Berlin」
舞台作品、映像作品、その創作過程と、政治活動、社会活動、そして私生活…がすべて同じ土俵で、同じ価値、品質で生み出され、関係し合っているような…本当の意味で稀有な芸術家だったのだなと思いました。なぜ、彼が、今、ここにいないのだろう…。今、彼がまだ生きていて、新しい作品を作ってくれていたなら…。私は亡くなって5年も経って初めて彼と出会った、ただの観客ですが、突然やってくる死の理不尽をうらみたくなりました。彼の関係者だけでなくヨーロッパの演劇界が、未だにその喪失感から逃れられずにいることに納得です。
身体障害者を立候補者に立てて、選挙キャンペーンとしてドイツ各地をめぐるパフォーマンス・ツアーを敢行したり(100人の失業者と湖に飛び込んで、湖畔にある首相の別荘を沈めようとしたアクションが有名)、知的障害のある人をテレビ番組に出演させて人気者にしたり。※一部間違いがありましたので修正しました(2015/08/02)。
アフリカのブルキナファソの首都の近くの村に、シュリンゲンジーフさんによるプロジェクト「アフリカ・オペラ村」が建設され、小学校とクリニック、音楽スタジオの運営が始まっているそうです。
ここからネタバレします。
『メア・クルパ(わが贖罪)』はレディメイド・オペラと呼ばれるもので、複数の名作オペラの楽曲を使っています。例えば『パルジファル』『さまよえるオランダ人』『トリスタンとイゾルデ』など。ゲーテ作『ファウスト』からのセリフの引用もありました(「時よ止まれ、お前は美しい」)。
回り舞台に乗せられた装置に、複数の映像が常に投影されるカオティックな空間で、物語にはシュリンゲンジーフさんご自身の現在(=当時)が反映されており、彼自身も登場します。さまざまなイメージ、問題提起の洪水で、私は飽和状態。常に本気で命がけってこういうことなのかな…。俳優もスタッフワークも一流でした。ぐうの音も出んわ!
「誰かに好きなところがあるとしたら、それは自分が持っている、自分が好きなところかもしれない」という意味のセリフがあり、ちょっと開眼気分。
クリストフ・シュリンゲンジーフ演出作品 「メア・クルパ(わが贖罪)」
(2009年、ウィーン・ブルク劇場、120分)
無料、要お申し込み
日本語字幕つきDVD上映
http://www.goethe.de/ins/jp/ja/tok/ver.cfm?fuseaction=events.detail&event_id=20553877
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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