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2015年09月06日

NNTD Actor's project/キダハシワークス『島 The Island』09/06,12-13芸能花伝舎内・新国立劇場演劇研修所実習室

 ⇒新サイトに同内容を転載しています。

 NNTD Actors projectとは、「新国立劇場演劇研修所の修了生が主体となって創作していくための演劇ネットワーク・ユニット」です。そのネットワークから生まれたキダハシワークスが、南アフリカの戯曲『島 The Island』を日本初演から27年振りに、新訳で上演します。キダハシワークスとは、演出家の田中圭介さんと俳優の窪田壮史さん(同研修所1期生)が同戯曲を上演するために結成した演劇ユニットです。

 研修所内のスタジオで、研修所の公式な協力を得て、修了生による一般向け公演が行われるのは、2005年の開所以来初めてのことです。NNTD actor's project第1回公演と銘打たれた今企画は、まさに記念すべき公演です。稽古場写真⇒

 研修所を10年間見つめてきた一人の観劇オタク(笑)の期待を裏切らない、2人の俳優が文字通りぶつかり合う、どっしり、ガッツリの、正統派ストレート・プレイでした。当日パンフレットの内容が非常に充実しています。演出家による前説もありますが、早めに行って一通り目を通しておくのもいいかと思います。上演時間は約1時間45分(前説込み)。開場・受付開始は開演の20分前。チケット代は一般1800円、学生1000円と安いです。

 ⇒主催者によるツイッターの感想まとめ
 ⇒CoRich舞台芸術!『島 The Island

 修了生の企画は続々と生まれていきそうです。以下もよろしければご覧ください。
 ⇒【写真レポート】新国立劇場演劇研修所修了生企画「小川絵梨子ワークショップ」(2015年6月)

 ≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
日本ではあまり知られていない南アフリカの作家を27年ぶりに新訳・上演!
「島 The Island」は、映画「ツォツィ」でも知られる南アフリカ共和国の国民的作家アソル・フガードが描いた、南アフリカのケープタウン沖にあるロベン島を舞台にした物語である。
そこはネルソン・マンデラ元大統領をはじめ、反アパルトヘイト運動の活動家ちが政治犯として収容された刑務所のあった島。
ある日、その島で「演芸会」が行われることになった。
そこでふたりの受刑者ジョン(窪田壮史)とウィストン(野坂弘)は、自分たち黒人の現状を訴えるためにギリシャ悲劇「アンティゴネー」の上演を計画するのだが・・・。
 ≪ここまで≫

 ほぼ何もないブラックボックスの空間で、客席が三方から演技スペースを囲みます。私は最前列中央へ。演技スペースはオレンジ色のテープでふちどられ、四角い床は色とりどりのチョークで描かれた文字や絵で埋められています。たとえば「1952年パス法」「2015.9.6(本日の日付)」など。

 役がセリフが言う時は、当然ですが、言葉を発するに値する理由、つまり動機があります。このお芝居では、セリフの背景となる設定、状況が、細かいところまで丁寧につくられており、身体と心でそれを表してくれていたから、セリフをそのまま信じることができました。
 出演者が2人だけで1時間40分以上あり、しかも舞台はほとんど牢獄の中というハードなお芝居ですが、笑いどころもしみじみ感動できる場面も多く、全く退屈しませんでした。2人の俳優は舞台で生きることに集中し、同時に客席にも意識を開いた状態でいてくれたように思います。特に野坂弘さんの瞬発力とアイデアの豊富さには驚かされました。

 劇中劇として一部上演される『アンティゴネー』以外にも、色んな名作戯曲が思い浮かびました。フガード戯曲はこれまでに2作観たことがあります。中でも『ハロー・アンド・グッドバイ』はとても良かったので、またいつか観たいですね。NNTD Actors projectでやってくれたらいいなー!

 ※チラシのデザインを担当されたのは研修所8期生の荒巻まりのさんです。

 以下、当日パンフレットより引用します。
~~~~~ここから~~~~~

 ごあいさつ
 
 NNTD Actor's project 窪田壮史 野坂弘

「100年後の日本の演劇にスタンダードがあったとしたら、どういったものであるべきだろうか?」
 演劇研修所を修了したこと、そして多くの人たちとの出会いが、私たちをこの問いに向き合わせてくれました。
これはとても難しい問いです。
おそらく私たちは100年後までは生きていないでしょう。それでも何かを繋いでいきたい。NNTD Actor's projectはそのような考えのもと、新国立劇場演劇研修所の修了生が主体となって創作していくネットワークとして企画されました。
今日、この“一歩”がその遠い未来に連なっていくことを切に願います。
そして今回の公演に際し、様々な面でご協力いただいた演劇研修所のスタッフをはじめ、多くの方々に感謝いたします。

本日はご来場、誠にありがとうございます。

~~~~~ここまで~~~~~

 ここからネタバレします。セリフは不正確です。

 開場して数分経って、ざらっとした質感のきなり色のシャツと短めのズボンを着た、2人の俳優が出てきます。やがて彼らは、濃い茶色のファンデーションを顔や体に塗り始めました。シャツを脱いで上半身にも塗り、裸足の両足にも塗ります。日本人から黒人へと変身しました。そして床にチョークで新たに絵や文字を書き足していきます。演出の田中圭介さんが中央にあゆみ出て、彼らをバックに、7分ほど作品背景を解説してからお芝居が始まりました。

 手錠をかけられ、足枷をされ、下着を脱がされて下半身の身体検査をされる…。冒頭で過酷な収容所生活が示されます。2年9か月前、終身刑のウィストンと刑期10年のジョンは家族から引き離されて、他の受刑者たちとともにぎゅうぎゅう詰めのトラックに載せられ、故郷から500マイル離れた港まで立ったまま運ばれました。そこから船で収容所のあるロベン島へと“島流し”にされます。島では劣悪な環境で強制労働をさせられ、特にひどい時には延々と砂を運ぶだけの無意味なことをさせられます。

 トラックで運ばれた囚人たちの誰もが、立ったまま眠り、失禁しなければならない状況は、ナチスのユダヤ人輸送と重なりました。無意味な肉体労働で気が狂いそうになるのを、必死で楽しいことを想像して切り抜けようとする姿から、ナチスのユダヤ人収容所を描いた『BENT』、シベリア抑留を描いた『ダモイ』を思い出しました。

 2人部屋でケンカしつつもそれなりに仲良く暮らしてきた2人は、演芸会の演目『アンティゴネー』の稽古をします。クレオン王役のジョンは小道具や衣裳の収集にも熱心で、他の部屋の仲間とも連絡を取り合って協力していますが、アンティゴネー役のウィストンは女役を演じることも、芝居を覚えることもおっくうがっています。何しろ毎日、看守にいじめられ、暴力を振るわれ、疲れ切っていますから。

  そこに、ジョンの弁護士が地元で進めていた控訴が認められ、彼の刑期が3年に短縮されたという報せが。最初はともに喜ぶウィストンですが、嬉しすぎて眠ることさえできないジョンを見て、自分の境遇とのあまりの差に耐えられなくなります。「きっと故郷に帰ったら俺のことも、ここに居たこともすっかり忘れるんだ」とジョンを責め、「なぜここに入れられたのか、自分が何をしたのか、もう思い出せない」「70代の終身刑の男を見ろ、彼は自分が何者だったのかも忘れて、石切場で石を切り出す名人になってる」と叫ぶウィストン。そういえば2人が激しい動きを繰り返していたせいもあり、床に描かれていたチョークの文字たちは、ほとんどがこすれて消えてしまっていました。消される歴史、忘却を効果的に表す演出だと思います。

 「大丈夫だ(「この土地の子供」の意味のコーサ語)」と自分に言い聞かせて落ち着きを取り戻したウィストンは、『アンティゴネー』の舞台に立ちます。実際の観客を看守や囚人たちと見立てて上演する劇中劇の『アンティゴネー』は、ギリシャ悲劇の原作からセリフが一部書き換えられており、クレオンはロケットを所持する国の国王として演説します。アンティゴネーのセリフにも2人をいじめていた看守のあだ名(ホドシェ=金蠅)が出てきました。1973年に書かれた戯曲なので、アパルトヘイトのことが含まれています(当日パンフによれば南アフリカ共和国の歴史においてアパルトヘイトの最初の記述は1913年、撤廃が1991年)。

 「国を守るために法があり、法を破ったものには罰を与える」と言うクレオン。アンティゴネーは反逆者の兄を埋葬した罪でとらえられますが、法律違反で死刑になるのを承知で自分の信念を貫いたと胸を張り、「自分を有罪にせよ」とクレオンに迫ります。「世界で一番強いのは、一人で立っている人間だ」というイプセン作『人民の敵』のセリフを思い出しました。

 劇中劇の後、2人は顔に塗られた茶色のファンデーションを布で拭い取り、素顔になります。そして冒頭と同じように、手を前に差し出して手錠をされるポーズを取り、前後に並んで足枷をされた状態で、仕事場に向かって歩き出す演技を始めました。2人は足を繋がれているので、一歩一歩リズムを合わせなければなりません。冒頭では何やら異国語のような掛け声を掛け合っていたのですが、ラストでは掛け声が「いち、に、いち、に」と日本語になっていました。顔に色を塗る姿と、拭い取る姿を見せることで、『島 The Island』もまた劇中劇であるように受け取れる演出になっています。同時に、この劇のような出来事が日本で起こる(既に起こっている)かもしれないと暗示させて幕を閉じました。


 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
 出演:田中圭介 黒川陽子

 黒川:この戯曲には英語、アフリカーンス語、コーサ語が出てきます。「Athol Fugard glossary」のおかげで助かりました。27年前に演出家の木村光一さんはどうやって翻訳されたのか…(大変だったと思う)。2人が相手を、もしくは自分を励ます時に言う「ニヤナウィシズウェ(Nyana we Sizwe)」という言葉はコーサ語で「この土地の子供(son of the land)」の意味。この戯曲では「大丈夫だ」「大丈夫か?」等の意味でも使われています。

 田中:ロベン島(世界遺産)は今は観光地で、当時収容されていた囚人が観光案内をしているそうです(笑)。もしこの作品を再演することがあれば、その時は俳優2人と一緒に行きたいねと話していました。


出演:窪田壮史、野坂弘
脚本:アソル・フガード(Athol Fugard) ジョン・カニ ウィンストン・ヌッショナ(劇作家フガード以外の2名は出演した俳優。『島 The Island』は3人で共同創作した戯曲だった)
演出:田中圭介 翻訳:黒川陽子(新訳)  音響:松田幹 照明:黒太剛亮 デザイン:荒巻まりの
企画制作:キダハシワークス/NNTD actor's project 協力:新国立劇場演劇研修所
【発売日】2015/07/25 一般1800円 学生1000円
休演日:09/07-11
https://www.facebook.com/events/1656479094565806/


※クレジットはわかる範囲で載せています(順不同)。間違っている可能性があります。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2015年09月06日 23:15 | TrackBack (0)