衛紀生さんが館長兼劇場総監督をつとめる岐阜県の公共ホール“可児市文化創造センター”は、2008年からala Collection(アーラ・コレクション)という演劇のプロデュース公演を実施して、全国ツアーを行っています。
2011年に上演した『エレジー』では主演の平幹二朗さんが文化庁芸術祭賞・演劇部門文部科学大臣優秀賞と、読売演劇大賞・男優部門優秀賞を受賞されました。私は2012年の『高き彼物』で初めて同劇場プロデュース公演を拝見し、素晴らしい作品だったのでメルマガ号外を発行しました。
今年、第6弾として採り上げられたのは鄭義信(チョン・ウィシン)さんの戯曲『秋の螢』。文学座の松本佑子さんが新キャストとともに、約12年ぶりに演出されます。同劇場で行われた公演製作記者発表に伺いました。
【写真↓左から:渡辺哲、松本佑子、小林綾子、細見大輔、福本伸一、粟野史浩】
●可児市文化創造センター・ala Collectionシリーズvol.6
『秋の螢』
≪岐阜、東京、徳島、岩手、栃木、新潟≫
期間:2013年10月10日(木) ~16日(水)
会場:吉祥寺シアター
出演:細見大輔、渡辺哲、小林綾子、福本伸一、粟野史浩
脚本:鄭義信 演出:松本佑子
チケット発売中:一般4,000円/18才以下2,000円
⇒CoRich舞台芸術!『秋の螢』
■衛紀生さん(プロデューサー)
衛:可児市文化創造センター(以下、アーラ)のala Collectionも6回目を迎えました。東京の演劇界は消費型の新作主義で、いい戯曲が沢山あるのにそのまま眠ってしまうことが目立ちます。作家が消耗品扱いされて、10年も経つと新作が書けなくなってしまうこともある。そこでala Collectionでは、古い作品を再評価して命を吹き込もうという考えのもと、プロデュース公演を行ってきました。
『秋の螢』は(登壇者の)松本祐子さんが2001年に文学座公演で演出なさって、いい作品だったんですが、これまで再演されてこなかったんです。震災もあり、今は“家族”“絆”とよく言われています。この2つの言葉は、私がアーラに来た時から全体の事業のテーマだと考えていました。お客様がある種の親近感を持ちながらアーラに来て、絆を結んでいければいいな、みんながアーラを中心に家族になっていければいいなと思っておりまして、『秋の螢』はそのテーマに通じる作品です。
■松本祐子さん(演出)
松本:『秋の螢』は2001年に文学座の本公演として、鄭義信さんに新たに書き直していただいて上演した作品です。都会の片隅の、ちょっと忘れ去られたような寂れたボート小屋に、色々とワケありな人々が集まって疑似家族を形成していきます。鄭さんの作品は、痛みや傷を持った人々に対する視線がものすごく優しいんです。傷ついた人同士がお互いにぶつかったり、ごまかしたり、癒し癒されたり、そして新たな傷を作りながら生きていく。人の営みの根本的な、普遍的なところを捉えています。
『秋の螢』の登場人物は、普段は恥ずかしくて人前には出せないような痛みや、心のもやもやをぶちまけます。お客様には、笑って、ちょっとホロっとしながら、そんな彼らが他者に癒されるのを観て、同様に傷が少し癒されたり、重荷が軽くなったりして、帰路に就いていただけたらと思います。
今回は私と同じ文学座の粟野史浩さん以外、皆さんが初めてご一緒するキャストです。面白くて、個性的で、熱心で、温かい役者さんが集まってくださって、とても楽しい稽古場になっております。観終わった後に「娘に電話しようかな」「お父さん、お母さんに電話しようかな」と思ったり、忘れていたつながりを大事にしたいと思っていただける作品になるよう、残りの日々を頑張って稽古します。可児市と東京の吉祥寺、その他の地域も回らせていただきます。ぜひ観に来てください。
質問:鄭さんの戯曲について
松本:非常にてごわい作家さんです。セリフが誰に向かって何の目的でしゃべられているのかがわかるし、難しい言葉はほとんど出てこなくて、日常で使うであろう言葉が羅列してあるんですが、実はそうでもなくて。発するのに体力を要する言葉が多いですね。易しそうに見えて意外と、実際に血肉化するのが難しいところが醍醐味です。心のひだに寄り添ってくる言葉が多くて、普通の言葉に見せかけておきながら、詩的な言葉がドンと折り込まれていたりする。それが素敵なところです。たぶん役者さんは、自分の心を勝手に持っていかれたり、思考がぐらついたりするんじゃないでしょうか。そこが面白いところであり、難しいところでもあるかなと思います。
鄭さんには、12月に私が文学座で演出する新作も、これから書いてもらいます。『秋の螢』と続けて観るのも面白いと思います。どちらも家族の話です。鄭さんの新作というと、山田洋次さんが11月に新橋演舞場で演出される『さらば八月の大地』(主演:中村勘九郎)もあります。よかったらあわせてご覧ください。
■細見大輔さん(タモツ役)
細見:昨年の『高き彼物』に続き、2年連続でお世話になっております。『高き彼物』の時は可児の街を自転車で存分に散策しました。自然が多くて人も温かくて、生活していくのに素晴らしい環境だと思いました。ala Collectionシリーズは役者にとっても、とても意義があります。これほど芝居に集中できる環境は、東京では実現できないことです。やり続けてくださっているアーラの方々に、本当に感謝したいと思っております。
松本さんもおっしゃいましたが、お芝居を観終わった後は、そばにいる誰か、そばにいなくても自分に近い誰かのことを、少しでも思ったり、連絡を取ったりしていただけたら。自分とつながりのある誰かのことを考えられるような、温かいお芝居にしていきたいです。この芝居の素晴らしさを伝えるだけでなく、可児でこんなに素晴らしいことをやっているんだと、東京はじめ各地に伝えて、可児の風を感じていただければと思っております。
質問:『秋の螢』という戯曲について
細見:不思議なことにセリフが覚えやすかったんです。稽古初日から台本を手に持ってる人がいないぐらい。…あせりました(笑)。やってるうちに、自然に自分の中に入ってくる。でも「なぜこのセリフを言ってるんだろう」とか、他者との関係も考えてみると、掘っていけばもっと色んなことがあるんじゃないか…と、だんだんと気づかされて、ゾっとしております。やりごたえのある、魅力のある作品です。
■小林綾子さん(マスミ役)
小林:今回、私は初めてのことが重なります。ひとつは可児に来たこと。緑も豊かで人も温かくて、こんなに素晴らしいところなのかと感動しました。2つ目は、こういった役柄をいただいたこと。私が演じるマスミは一見“がらっぱち”なんですが、心に負った深い傷を、明るさや元気さ、バカさ加減で表現してしまうところがあります。どちらかというと私は、誠実、清楚、(「おしん」のように)辛抱強いといった役柄が多かったんですけど、今回は全然辛抱してないですね(笑)。どちらかというとドーンと表に出していく役です。そんな役に挑戦できることの喜びもあり、キャスティングしてくださった方に感謝しています。
可児のこの場所で一か月半過ごすのも初めてですし、今までは商業の舞台出演が多かったのもあり、こうやってじっくりとお芝居に1か月以上取り組むことも初めてなんです。私は昔からこういう物作りに参加したいと、すごく思ってました。この機会を与えていただいたことに感謝しています。皆さんと一緒に協力して、成果が出せるように、お客様に楽しんでいただける、いいものを作れるように、頑張っていきたいと思っています。どうぞ皆さん観に来てください。
質問:マスミという役ついて
伊藤:マスミはどうしてこのセリフを言うのかなと考えるところがいくつもあって。強さの裏にある弱さというか、本当は小心者な部分があるのに強い言い方をするマスミを、どう表現したらいいのかを悩んでいます。傷ついていても、孤独のとなりにある幸せを見つけられる、得な性格なのかなとも思います。生活感まる出しで、バカみたいに明るい面を押し出しながら、楽しくてユーモラスなマスミをまず作って、稽古をしていく中で見つけられたらなと思っています。
■渡辺哲さん(修平役)
渡辺:僕は愛知県出身です。お話をいただいた時は正直なところ、6週間も可児にいるのは嫌だなと思ったんです。でも本を読ませていただいた時に、ヤバイと思ったんですね。自分のいま置かれている状況や生き方、考えていることに対して、「俺は今、何やってんだろう」と(振り返らざるを得なくなるような)、ひしひしと迫って来るセリフが多くて、参ってしまいまして。これは絶対にやらなければいけないと思い、すぐにやると決めました。
こちらに来てみるとアーラの皆さんはとても親切で、自然もあるし稽古場も近くにありますし、結果的にいい環境でやれていることが非常に嬉しいです。こういうことは初めてです。本当にいいプロジェクトに参加させていただいたと思っています。
芝居は今つくってる最中です。自分には妻と子供がいまして…と、こんな風に、自分の人生を考えさせられるセリフがあまりに多いので、かなり戸惑っています。「俺、これ、ヤバイ!」と(笑)。
お客様には、心にとまるようなセリフや、生き方とか、何か少しでも感じていただければいいなと思います。笑えるところもいっぱいあります。この作品で、自分を思い出すような体験ができるんじゃないでしょうか。是非ご覧になっていただきたいです。
質問:『秋の螢』という戯曲について
渡辺:セリフを覚えて、演技をして普通にしゃべるのはいいんです。自分の体に落ちる(腑に落ちる)と、言えるんです。でもまた言えなくなる。正直に出ないというか、普通のお芝居とちょっと違うんです。落ちたところから、また掘らないといけない。そうすると関係性がまた違ってくる…もう考えない方がいいのかな(笑)。難しいですよ。安心できない。相手との関係性でやってるんですけど、お互いに掘っていけば掘っていくほど、わかんなくなってくる。いつになったら言えるんでしょう(笑)。自分で一生懸命やっていかないとダメかなと思っています。とても深い戯曲です。
■福本伸一さん(サトシ役)
福本:僕も可児は初めてで、来る前はこの町に対するイメージは全くなかったんですが、来てみたら本当に素晴らしいところでした。ありがたいことに自転車をお貸りできたので、あらゆるところを回っています。木曽川が大好きになってしまいました。
もちろん稽古はものすごい密度でやっています。僕自身、半世紀生きてきて、人としても役者としても色々と考えている時期に、ちょうどこのお仕事をいただきました。可児に来て、この少人数でやっていることは、自分にとっての癒しになり、次へのステップにつながると思っています。1か月半ここにいて東京に戻るころには、自分はちょっと違っているだろうということが、常に見えております。
観に来てくれた方にとって、ちょっとでも癒しになる作品になるといいなと思っています。
質問:『秋の螢』という戯曲について
福本:皆さんおっしゃるように会話自体は日常的なことが書いてあって、本当に覚えやすかったんですが、表面がいかに軽やかであろうが、奥を感じさせる作業が必要なんだと思います。どこまでも奥へ掘れる本だと思う。稽古は時間がかかると思いますが、挑戦したいです。
■粟野史浩さん(文平役)
粟野:今年5月に俳優座プロデュース『音楽劇「わが町」』で可児に来た時は、滞在期間が3日ぐらいで、どういう町かを知る前に東京に帰っちゃいました。でも今回はじっくりと根付いて芝居を作っています。可児は非常にいい街です。
僕は『秋の螢』の初演を観ています。でも、初演をなぞるのは嫌なんです。再演でキャスティングされた時は、初演を元も子もなくぶち壊すという心情でいます。とはいえ「(初演と)同じじゃん!」って言われる時もあるんですが(笑)。なるべく新しいものを作っていこうという心構えで、今回もやっていきたいと思っています。
質問:『秋の螢』という戯曲について
粟野:皆さんおっしゃるように鄭さんのセリフは覚えやすいし、本にも力があります。セリフを覚えて、稽古を積み重ねていって、掘り下げる。そこからが苦労するところなんじゃないか。壁にぶち当たった時に、基本に戻って、あくせくしながら作っていく脚本であり、作品だなと思います。
記者発表の後に稽古見学の時間がありました。【写真↓は劇場より提供】
≪あらすじ≫ 公式サイトより
都会の片隅にある公園の忘れ去られたようなボート乗り場。そこに吹き寄せられたようにやってくる女と男たち。
≪ここまで≫
冒頭の数分間の繰り返し稽古を拝見できました。質素だけれど、和やかで幸福な日常が生き生きと作られていきます。懐かしいボート小屋に粟野史浩さんが登場した時、ひゅるりと違った空気が流れ込んだのがとても面白かったです。粟野さん演じる文平は、“疑似家族”の中でもちょっと違う存在なんですよね。
これから掘って、深めて、アーラならではのお芝居になるのだと思います。私個人としては、より家族らしい家族になった俳優の皆さんを、舞台で観られることを楽しみにしたいと思います。
≪岐阜、東京、徳島、岩手、栃木、新潟≫
出演:細見大輔、渡辺哲、小林綾子、福本伸一、粟野史浩
作:鄭義信 演出:松本祐子 美術:島次郎 照明:服部基 音響:鶴田浩(公財)可児市文化芸術振興財団 舞台監督:八重樫慎一 プロダクションマネージャー:村松明彦(公財)可児市文化芸術振興財団 宣伝美術:株式会社カラビナ プロモーション:坂﨑裕二(公財)可児市文化芸術振興財団 制作:清水佑香子、澤村潤(公財)可児市文化芸術振興財団 プロデューサー:衛紀生 主催:(公財)可児市文化芸術振興財団
チケット発売日:2013年8月24日(土) 一般4,000円 / 18才以下 2,000円(全席指定・税込)※学生券はカンフェティチケットセンターのみ、10/1より予約受付。(当日精算。公演当日、会場受付で学生証をご提示ください。) 未就学児童は入場をご遠慮ください。
主催:(公財)可児市文化芸術振興財団 お問合せ:石井光三オフィス TEL:03‐5428-8736
http://www.kpac.or.jp/collection6/index.html
http://www.kpac.or.jp/event/detail_432.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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