2004年02月21日

ク・ナウカ プロデュース『かもめ・第二章』01/14-18スフィアメックス

 技術が確かな俳優さんが集まったク・ナウカのプロデュース公演。贅沢ですね~。
 イタリア人演出家のジャンカルロ・ナンニさんを迎えて、ひと味もふた味も違うチェーホフの『かもめ』を体験させてくださいました。『かもめ』を観たことがある人なら誰もが心底楽しめたんじゃないかと思います。

 まずスフィアメックスの真ん中全てが舞台でした。壁に沿って役者さん個人の“ブース”があり、それぞれのテーマでそのブースが装飾されています。トリゴーリンが犬というのがしっくり来ました。掛け軸に標語のようにそれぞれの性格を現す掛け軸がありました。コースチャ「ミアキャット。いつもびくびく現金払い」というように。

 役者さんそれぞれに『かもめ』の登場人物の役を割り当てられています(ニーナ以外)。時系列はそのままでしたが普通に『かもめ』を上演する形式ではありませんでした。時には役に関係なく円に並んで順番に脚本のセリフを読み上げたりもします。ストーリーから全く離れた不条理劇のような側面や笑いを誘う粋な実験的演出を見せつつ、やはり伝わってくるのは『かもめ』に出てくる人間たちの心でした。

 役になりきるというのは一体どういうことなんだろうと改めて考えさせられました。人間は決して自分以外のものにはなれないですよね。例えばイリーナ役を演じるとすると、自分の中からイリーナ的な部分を探し出して再構成して、新しいイリーナを作り出すのかな~などとぼんやり感じました。舞台上にいた役者さん達はあくまでも自然なご自分のままでありながら、同時に生き生きとした『かもめ』の人物でもありました。ジャンカルロ・ナンニさんの魔法なのかしら?役者さんたちも登場人物もすごく魅力的でした。

 大女優イリーナ(ひらたよーこ)と売れっ子の小説家トリゴーリン(三村聡)のラブシーンがものすごく官能的でした。私はあのシーンのトリゴーリンの「僕には自分の意志というものがない」というセリフが大好きなんです。しかも三村さんが私の理想のパターンで言ってくださいましたので大満足。

 ニーナを内面のニーナと外面のニーナの2人に演じさせたのはものすごく面白かったし、若者らしさが明らかになった気がしました。それにしても、たきいみきさん(ク・ナウカ)のお美しいこと!そこいらの人気アイドルなんて目じゃないですよ。
 
 イリーナの兄のソーリン(山田宏平)というと定年退職してだらりと生きているダメおじさんで、のれんに腕押しというイメージだったのですが、イケメン医者のドールン(牧山祐)に向かって本気で怒りをぶつけて怒鳴る演技があり、驚きました。同時にソーリンの悲しさが胸に響きました。

 コースチャ(大井靖彦)が自殺した時、舞台全体の照明が消えて彼のブースのカラフルな電球3~4個だけが点ったのは、寂しいけどちょっとおどけた感じのイタリア映画のようでした。

作/アントン・チェーホフ 演出・美術/ジャンカルロ・ナンニ(teatro Vascello)
出演/ひらたよーこ(青年団)、松田弘子(青年団)、大井靖彦(花組芝居)、三村聡(山の手事情社)、山田宏平(山の手事情社)、牧山祐(東京オレンジ)、桜内結う(ク・ナウカ)、たきいみき(ク・ナウカ)、藤本康宏(ク・ナウカ)
スタッフ/舞台監督:海老澤栄 美術:青木祐輔 照明コーディネート:伊藤孝 音響:鳥巣祥洋(AZTEC) 衣装:小山ゆみ 演出助手:大野裕明(花組芝居) 舞台監督助手:松堂雅 照明操作:木藤歩(バランス) 照明協力:ART CORE 通訳:キアラ・ポッタ 台本協力:平田オリザ 企画:宮城聰 制作:大和田尚子、田中美季、久我晴子 票券協力:ぷれいす

ク・ナウカ : http://www.kunauka.or.jp/

Posted by shinobu at 2004年02月21日 21:58