2004年05月25日

チェルフィッチュ『三月の5日間』02/13-15スフィアメックス

 チェルフィッチュは脚本・演出をされる岡田利規さんのソロ・ユニットです。
 第13回ガーディアン・ガーデン演劇フェスティバル第2次審査ではダントツNo.1入選でした。
 6/4(金)~5(土)に神戸公演があります。関西地方の方、ぜひともご覧下さい。すごいですよ。

 チェルフィッチュHPによると、“超リアル日本語”と“現代の日常的所作を誇張しているような/してないような独特の身体的方法”による舞台表現です。
 のべつ幕なしに流れ出る今ドキの若者言葉の洪水の中から、予想外の素直な感情と意志が伝わってきました。
 日常をバラバラに切り取って描く群像劇であり、作者のしっかりとした主張であり、切ないラブ・ストーリーでもありました。以下ネタバレします。

 何もない舞台。赤いパイプの一人掛け用ベンチがひとつと、壁に掛け時計があるだけ。
 とぼとぼと歩いて舞台に出てきた役者さんが「今から『三月の5日間』っていうのをやるんですけどぉ・・・」と言ってお芝居が始まります。始まったのかどうかもよくわからないような、自然というよりも、ふにゃ~っとした幕開け。

 その後、役者さんが代わる代わる出てきて、今ドキの若者の発声、言葉づかい、身振りで、時にはぽつぽつと、時には休む暇も無く、ただただ言葉を撒き散らします。他人に伝えようとしていない言葉と意味なくフラフラと漂う体はとてもそっけなく、しかし笑いを誘います。「あぁ、こういう人っているよね~」とか「その論理の飛躍は何!?」とか。

 作・演出の岡田さんはギミック(からくり・仕掛け)とおっしゃっていましたが、シンプルな空間でたくさんの演出的手法が使われていました。例えば、セリフやシーンのくりかえしが現れたり、出来事が時系列バラバラに紹介されたり。1人の男の役を2人の男優で演じて、その2人が同時に舞台上に存在したり。役者が会話の途中で突然舞台から袖に消えたり、観客に話しかけたりしました。「この後、休憩があるんですが」「この話はあと10分ぐらい続くんですが」など役者さんに言われるのはすごく不思議な感触で、とても面白くて引き込まれます。

 舞台は2003年3月20日の東京。アメリカがイラクに宣戦布告するかしないかの緊迫していた時です。六本木のライブハウス、ある女の子の部屋、文化村の近くのラブホテル、反戦デモが闊歩する渋谷の大通り、コンビニ等、色々なところに飛びます。

 ライブハウスでの出会いからそれぞれのエピソードが始まります。イケてない女の子が不自然に自らナンパをしてしまうのは非常~に痛い。でも可笑しい(笑)。ひどく挫折して自分の部屋に帰って、自分だけの夢想の世界で怒涛の独り言タイム。想像力の無限のパワーで宇宙へと飛翔!
 「私は火星人になる。だって火星人なら彼に嘘の住所を教えられていても気づかないでいられるもの。」切なくてステキです。

 そして同じくライブハウスで出会った男女のエピソード。そのままラブホテルに行ってしまってヤリまくりの4泊5日。渋谷の町では反戦デモ。
 「あと3日ここにいよう。そうしたら、戦争終わってるかも」
 「これって奇跡だと思うんだよね」「思うよ」
 「こんな風に考えてる人ばっかりだったら戦争は起こらない」
 フリーターの男女の軽はずみでふしだらだと言われてもしょうがない行為から、作者の反戦の気持ちがストレートに伝わってきました。予想外でした。
 男も女も全然きれいな格好をしていないし、デザインめがねをかけていて顔もよくわからなかったのですが、その彼女がとても美しく見えてきました。

 ラブホテルで4泊した二人は、お互いに連絡先の交換などせず別れることを決めます。渋谷じゃないみたいな渋谷でまるで旅行をしているような夢心地の日々を過ごしたけれど、二人が駅で別れた後、女はある事件に遭遇して完全に現実世界に引き戻されてしまいます。渋谷もいつもの渋谷に戻ってしまいました。その、夢が消えてなくなってしまったという告白の後に、駅での別れのシーンを持って来ているのです。終わりを見せてからその前を描くことでより切なさが増すんですよね。さようならだと知って愛し合う2人。戦争は終わらなかったことを知っている観客。巧みな構成だと思います。

 ラストシーン前に始めての暗転がありました。切符売り場での二人の最後の言葉。反対方向に歩いていく二人。そして長い暗転の間、電車のホームの騒音が流れます。いつもと違う渋谷、だけどそれはもうすぐ消えてしまう夢。暗転中、涙が溢れて溢れて止まりませんでした。私の2004年に観たお芝居の中のベスト・ラストシーンになるかもしれません。(ちょっと気が早い?)

 去年の三月、確かに私たちは生きていて、地球上で起こっていることを知っていて、何かを思い、何かをし、何かをしなかった。このお芝居とともに、アメリカのイラク進軍、震え迷っていた日本、あの時の私が、消えない記憶となりました。

 男の「ヤリすぎて痛いポーズ」が笑えました。リアルなのかどうかはわかりませんが(笑)。
 コンビニで自分の武勇伝(ゆきずりの恋)を話す時、男が2人で地べたに座っている様子がリアル。
 デモに参加している男の子たちの動きもいちいち爆笑です。実際にああいう人いますよね。

 壁に掛けられた平凡な掛け時計は、『三月の5日間』の時間の経過とは全く関係なく、上演時間を刻んでしました。
 照明は線を引くように当てられていました。シンプルに区間を表すように。結構好きでした。
 音楽は意味がよくわかりませんでした。意外、というよりは突然に鳴り出すし止むし。

 で、“鈴木君”は結局どこに出てきたの?わからなかったのは私だけ?

第13回ガーディアン・ガーデン演劇フェスティバル
脚本・演出/岡田利規
出演/下西啓正 山崎ルキノ 山縣太一 瀧川英次 松村翔子 江口正登 東宮南北
舞台監督/山越正樹 照明/大平智己 音響/橋口修 写真/相川博昭 宣伝美術/北見大輔
チェルフィッチュ : http://homepage2.nifty.com/chelfitsch/

Posted by shinobu at 2004年05月25日 00:26