永井愛さんの作品を連続して上演する世田谷パブリックシアターの企画の第一弾。江守徹さんが演出・出演されます。 『時の物置』は1999年に読売演劇大賞優秀作品賞を受賞した作品です。
公演に合わせてレクチャー(6/9永井愛、6/10栗山民也、6/14江守徹)も開催されます。これは大変贅沢な企画だと思います。
舞台は1961年の東京、テレビがある家に人が集まってくる時代。新庄家とその近所に住む人々のとある日常の風景。祖母、父、息子の3世代にわたる登場人物のそれぞれの立場と想いを描くことによって、高度経済成長の真っ只中の東京が浮かび上がります。
貧乏だが士族の生まれであることを誇りに思っている闊達な祖母(有馬稲子)、プロレタリア文学から私小説に鞍替えした教師の父(辰巳琢郎)、学生運動に巻き込まれていく息子(佐川和正)、母を追って新劇の女優を目指す娘(佐藤麻衣子)、労働者運動を支持していたが経営者(江守徹)と結婚してしまった姉(河合美智子)など。
舞台の登場人物にとっては命に関わるような大変な出来事がさんざんに起こりますが、のどもと過ぎれば特に何も起こらない平和な日々だった、と通り過ごされます。そうやって私達は戦後、高度成長期、バブル&バブル崩壊という時代を消化してきたのだなと感じ入りました。このような視点から過去を振り返る必要があると思います。『時の物置』とはまさにその記憶の記録ではないでしょうか。
時間がゆったりと贅沢に流れますがリズムが単調なのでちょっと退屈。また、哀しい時に哀しい音楽、楽しい時に楽しい音楽というのはあまり面白くないですね。曲はとっても優しいし素敵なのですが。
永井愛さんの大ファンの私としては、もっと猥雑で悲惨で困惑するような状況や、それを笑って吹き飛ばすような暴力的な演出が見たかったです。永井さんの作品では自分の世界や常識がぐちゃぐちゃになる感覚を味わいたいので(笑)。
舞台は、装置も小道具も何もかも超リアルに作られていました(妹尾河童さんの美術です)。しかし、最後に秀星(息子)がスキーをやめて学校に行くシーンで、初めて抽象化されます。大きく開く窓の外には黒幕が見えますし、それまで決して使わなかった家の前(舞台つら)を道として使い、秀星がまっすぐ歩いて行きます。私はそこに現代へと向かう道筋が表された気がしました。「渡る世間は鬼ばかり」等のTVホームドラマのように遠くにあった舞台が、突然、私のそばまで歩み寄って来たように感じて嬉しくなりました。そこで初めてこの作品が私の過去と重なったように思いました。
客席には年配のお客様がいっぱい。昔なつかしのテレビ番組や歌謡曲、家財道具に彩られた、あの日あの時の日常を存分に味わわれたことと思います。その時代を知らない若い世代にもお薦めですね。新たな発見ばかりになるかもしれません。
作:永井愛 演出:江守徹
美術:妹尾河童 照明:成瀬一裕 音楽:笠松泰洋 音響:内藤博司 衣裳:半田悦子 舞台監督:澁谷壽久 演出助手:水谷勝
出演:有馬稲子/辰巳琢郎/佐川和正/佐藤麻衣子/雛形あきこ/根岸季衣/木津誠之/藤川三郎/太刀川亞希/川辺邦弘/植田真介/田根楽子/駒塚由衣/かんのひとみ/河合美智子/江守徹
世田谷パブリックシアター内公式サイト:http://www.setagaya-ac.or.jp/sept/jouhou/04-2-4-16.html