世界的な振付家でありダンサーである金森穣さんは、新潟市民芸術文化会館“りゅーとぴあ”の舞踏部門の芸術監督になられたんですね。
日本初のプロフェッショナル・ダンス・カンパニーのお披露目公演です。そう思うと感慨深いです。
NHKのトップランナーという番組で初めて金森さんと彼の作品のダイジェストを拝見して、素敵だなぁと思ったのでチケットを取りました。大人気で追加公演があったんですね。(そういえば今度はコンドルズがトップランナー出演とか?)
「全席立ち見」ということで動きやすい格好のお客様が多かったのですが、おしゃれな人が多い!おそらくダンサーさんだろう方々も沢山いらっしゃいました。
劇場の扉が開くと、目の前にまず白い壁。壁伝いにゆっくりと中へと足を進めていくと、大きな発砲スチロールの板を重ねて作った壁によって囲まれた、部屋にたどり着きます。パークタワーホールは大小さまざまな4つの部屋に区切られていました。観客はその部屋を自由に歩き回っていいのです。一人ずつ、少しずつ、ダンサーが現れて、それぞれ即興っぽいダンスを踊り始めます。ダンサーは全員が髪と眉毛を白に近い金髪に染めていて、衣裳もそれに順ずる灰色でしたので、壁と同化していました。人間じゃない感じ。壁にはところどころ穴(覗き穴)が空いていて、そこから他の部屋のダンスを覗くこともできます。目の前、というか体が触れる近さで踊ってくれるのですから、すごい体験です。ダンサーがすばやく移動する時に、腕をつかまれたりも!
15分間ぐらい歩きながら観ていて、自分は男のダンサーがいるところ、特に女のダンサーと一緒に踊っているところに足が向くことに気づきました。女のダンサーはのソロはあんまり魅力なかったですね。力も迫力もあんまりで。男のダンサーは何か燃えたぎるものがありました。
30分ぐらい経って、そろそろ歩いて見るのも飽きたな~・・・と思い始めた頃に全体が暗転し、巨大な白い壁が全部、上へと上がっていったのです。壁の床面に蓄光塗料が塗られていたらしく、下から眺めると部屋の間取りがくっきりと光って示されて、私はまるで満天の星空を見上げるように見とれました(アフタートークで美術の田根さんがおっしゃったのですが、あの蓄光は中国の奥地から取り寄せたスーパーブルーという特別なものだったそうです。道理で蓄光の独特の蛍光緑とは違う、薄いめの良い色が出ていたわけです)。そして現れたのが素っ裸のパークタワーホール全体。なんてかっこいいんだ!!ここから観客は壁側へと誘導され、だだっぴろい真四角の空間がステージになりました。タイトルが『SHIKAKU(しかく)』ということで様々なシカク(四角、死角、詩を書く、資格、視覚・・・)がテーマになっていたのですね。ホール全体を使って全員で何らかのルールにのっとって踊るのは面白かったです。振付ってシステムだよなぁと漠然と感じました。
今回、実はお目当てのダンサーさんがいたんです。トップランナーの実演コーナーにも出演されていた島地保武さん。2003年9月の『舞姫と牧神達の午後』@新国立劇場でファンになりました。で、今回の島地さんは・・・怖かったです(苦笑)。何しろ眉毛が白いので、目をひん剥くとヤクザみたい・・・。でもダンスはやっぱり素晴らしかったです。体も大きいので目立ちますし、『牧神・・・』の時よりもずいぶんダイナミックで豪傑な印象でした。ラストに一人だけドレスを羽織ったのも島地さんでしたよね。あのピンクのゴム(赤い糸)を持って(?)白い魚のようなドレスを着て歩いていくラストは美しかった。
衣裳およびヘアメイクについて一言。私は女性ダンサーの髪型は失敗だったと思います。ほぼ全員が短い目のざんぎり頭なので、「女」に見えないのです。美人もブスも、みんなブスに見えるというか。男は一人一人特徴があるドレッドヘアーだったので誰が誰だか見分けがつくのですが、女はほとんど同じで、女でも人間でもないものになってしまっていました。衣裳については女にスカートを身に着けさせて男との区別をつけていたのだから、個人の区別もちゃんとつくようにしてもらいたかったです。
金森さんと美術の田根剛さん、音楽の平本正宏さんの3人を迎えてのアフタートークがありました。美術の田根さんが一番多く質問をされていましたが、その哲学的な意図というか、建築家らしい深い考えがこの舞台作品に反映されているのを知れてよかったです。そして、金森さんって、賢い人なんだなぁとしきりに感心してしまいました。「自分のカンパニーのダンサーに一番に求めるものは何ですか?」という質問に対して「プロ意識」とお答えになったのには感動。新潟市民じゃなくても税金払いたくなります。以下、完全に正確ではないですが、金森語録です。
・「全く新しいもの」なんてもう生まれない。自分が新しいと思っていても、既に誰かがやっているから。例えばこういう実験的な空間は20年前に寺山修司がやっていたりする。モノとモノのバランスでしか、オリジナリティは出せない。
・自分ひとりでは決して作ることはできなかった。ダンサーやスタッフ、田根さん、平本さんという天才と一緒に作ったからこれが出来た。そして何よりもこの作品については観客がいないと成立しない。その観客についても、今日のこのステージの観客が一人でも欠けていたらこのステージは完成しなかった。
・「No-ism(ノーイズム)」とは、何のイズムにも捕われないことによって、どんなイズムも肯定するということです。(挟み込まれたチラシ“キリン・アートニュース・レター”より抜粋)
私が言うことでもないのですが、お客様の質が良いと思いました。アフタートークで質問される内容がとても興味深いし、劇場内での立ち姿、歩き方などを拝見していても、行儀が良いし、かといってかしこまり過ぎないし、一人で堂々と立っている方が多かったです。携帯の音ももちろん鳴りませんでしたし、携帯で写真を撮る人もいませんでした。金森さんが堂々としてらして、思慮深く、知的な方だからかなぁと思いました。だって自分も背筋も正さなければという気持ちにさせられるんですもの。
上演中に、篠山紀信さんがデジタルビデオカメラとデジタルカメラでじゃんじゃん撮影をされていました。それはそれで臨場感があって面白かったです。ビデオも撮られるんですね。助手が2人ついていました。
次回の新作もまず新潟で発表されてから、滋賀、山口、宮崎、高知、岐阜、東京、長野を廻る全国ツアー(2004年10月~12月)があります。
演出:金森穣 振付:Noism04
出演:青木尚哉 井関佐和子 木下佳子 佐藤菜美 島地保武 清家悠圭 高橋聡子 辻本知彦 平原慎太郎 松室美香 金森穣
美術:田根剛 照明デザイン:沢田祐二(沢田オフィス) 音楽:平本正宏 衣裳デザイン:北村道子 美粧デザイン:市川土筆(MILD Inc.) 舞台監督:やまだてるお(モモプランニング) 音響:金子敏文(りゅーとぴあ) 装置制作:C-COM 小道具製作:新創 プロダクションマネージャー:須藤聡子 広報:横木裕子(りゅーとぴあ) 制作:真田弘彦 野本妙子(りゅーとぴあ) エグゼクティブ・プロデューサー:丸田滋彦
金森譲(jokanamori.com):http://www.jokanamori.com/